二楷堂は私を落ち着かせるように肩に触れながら答える。
「自分では抑えきれないほどの吸血衝動に駆られて……恐らく狂う。
それを自分で感じたから、亜姫のお母さんは自ら命を絶ったんだ。誰かを傷つける前に。
死を覚悟して……最後に会いに向かったのが亜姫と亜姫の父親だった」
『ごめん、ね……亜姫。
ママの分も、強く……生きて』
息を乱しながらツラそうな顔でそう笑ったお母さんの顔が浮かぶ。
二楷堂の話が本当なら、あの後お母さんは……私の父親だった人に会いに行ったんだ。
そしてふたりは一緒に――。
「亜姫のお母さんは人殺しなんかじゃない。
ヴァンパイア界も人間もハンターも、誰一人傷つける事なく、この世を去ったんだ。
きっと、亜姫の未来を守りたかったんだろう」
堪えきれなくなった涙が浮かび、零れ落ちる。
一度溢れるともう止まらなかった。
熱い水滴が頬を流れ落ち続ける。