「正直、ヴァンパイア界がどうなろうとどうでもよかったんです。
俺が身を置いているのは別の場所で、ハッキリ言えばここは関係ない。
だけど協会の方々が亜姫にひどい仕打ちをしていると知ったので、放っておけなくなった」

身に山ほど覚えがあるでしょうと穏やかに話す二楷堂とは逆に、会長の顔には明らかな焦りが浮かんでいた。

「亜姫にした事すべて、例え謝罪をしてもらっても許せる事ではありませんが……。
その中でも特に許せない事が、亜姫の母親についての嘘です」
「嘘って……?」

咄嗟に聞いた私に視線を移してから、二楷堂がチラっと会長を見る。
そして、どうせあなた方は真実を語らないから俺から話しますと一方的に告げた。

二楷堂の真剣な瞳が再び私を映す。

「まず、亜姫のお母さんは人を殺してなんかいない」
「……でも、火事の後からはお母さんと男の人の遺体が発見されたって……」
「自殺だったんだ。ふたりの。
お母さんと一緒に遺体で見つかったのは、亜姫の父親だよ。
その人は、ヴァンパイアではなく、ハンターだったんだ」