「……っ」
「亜姫?」
息苦しくなって胸の辺りをぎゅって押さえると、それに気付いた二楷堂がすぐに声をかけてきた。
「なんでも、ない」
「でも、顔色が悪いよ。
……次で降りようか。少し外の空気でも吸った方が楽になる」
「なんでもないって、言ってるでしょ」
二楷堂に背中を向けて、目をきつく閉じながら言う。
全部が血に染まって見える視界には、誰も入れたくなかったから。
誰かを見たら、襲い掛かるんじゃないかって、不安だから。
ドアのガラス部分におでこをくっつけながら浅い呼吸を繰り返して、落ち着かせる。
別に、珍しい事じゃない。
特にここ半年は誰の血も吸っていないから、こんな衝動が頻繁に起きるようになっていた。
発作みたいな衝動。
それが起きるたびに、自己嫌悪に陥って消えちゃいたくなる。
自分が、人間を殺せるほどの凶器を持っている事を思い知らされるから。