もう何も関係ない。

血に駆られて会長をこの手にかけようとした瞬間、後ろから押さえつけられてそれを阻止される。

「離して……っ! 離せっ!」

暴れてどうにか拘束を解こうとしたけれど、どうやっても敵わなくて……悔しくて涙が零れ落ちる。

こんなにもひどい扱いを受けてるのに、指一本触れられないなんて……。
そう思うと悔しくて堪らなくて、後ろから押さえつけられたまま声を上げて泣き出しそうになったけれど。

「亜姫、落ち着いて。俺だ」

聞こえてきた声に耳を疑ってからゆっくりと後ろを見上げると、私を押さえつける二楷堂の姿があった。

押さえつけるというよりも、ただ後ろから抱き締めているって表現の方が正しいかもしれない。

冷静さをすっかり失っていたから、誰かも分からずに押さえつけられたと思っていたけれど、私を傷つけるような乱暴なものではないし、むしろ私が腕を振りほどこうとしたせいで二楷堂の白いシャツはところどころ破けていた。

中には、私の爪でできたひっかき傷が見える。