「あの男は確かに弱そうだし、亜姫が強いって言うのも本当なのかもしれないけど。
でも、俺としてはこのキレイな身体に少しでもキズがついたりするのは許せないし」

そう言って、二楷堂は私の手をとると、自分の顔の高さまで持ち上げる。
何をしようとしてるのかが分かったから、そうされる前に手を振り払った。

「あれ、残念」
「そういうキザな事してると、そのうち二楷堂にも噂が持ち上がるかもね。
“王子様疑惑”とかなんとか」

電車の中で手の甲にキスをしようとするとか。
同じ車両に乗り合わせた乗客からすさまじい非難の視線を浴びそうな行為だ。

でも、二楷堂はそんなキザな行為をしても許されちゃうような甘い顔立ちをしてはいるんだけど。

“王子様疑惑”なんて、バカにして言ったのに、二楷堂はまんざらでもなさそうににっこり笑う。

「お姫様と王子でちょうどいいんじゃない?」

決して鈍くないハズの二楷堂は、私がバカにしてるって事くらい分かってるくせに。
それを分かった上で、するりと交わすっていう大人な対応をされると、逆にバカにされた気分になる。