美音は「分からないけどね」ってため息混じりに言った。
それから、私に近づきながら話を元に戻す。

「ねぇ、本当にあの男とはなんでもないの?」
「だから、そうだって言ってるでしょ。
……美音、やけに気にしてない?」
「だって、気になるでしょ。
――亜姫ちゃんが一向に“貧血”にならないのは、あの男と関係あるのかどうか」

“なるべくいつも通りにしなくちゃ”
それを忘れたわけじゃない。
でも、すぐに言葉が出てこなかった。

私が今こうして発作状態に陥っていないのは、二楷堂のおかげだ。

二楷堂の血を吸ったからじゃない。
キスして精気をもらってるから。

でも……それを素直に説明する事はできない。

人間と身体を重ねてももらえる精気なんてたかがしれてるって、美音も言ってた。
なのに、私が二楷堂とキスしただけで満たされてるって言ったら、必然的に二楷堂は人間じゃないって事になる。