家が近づくにつれて安堵感が増してくる。
そこで初めて自分の異常事態に気づいた亜希はとっさに洋服のポケットに手をいれる。
ー肺が痛いな。走りすぎたのか・・・・・・あれ?
目当てのものが無い。
いつも常備しているはずの薬が無いのだ。
反対側のポケットにもない。
「嘘でしょ・・・・・・・」
誰も通らない静かなあぜ道に亜希の取り乱した声だけが響く。
薬が無いだけなら亜希もそこまで取り乱すことは無かったろう。
家に帰れば予備は幾らでもあるのだから。
問題は薬の巾着に一緒に入っていた香袋だ。
ー大切な物なのに、あの時落としたんだ。
泣きそうになりながらも発作を抑えるため、亜希は家に帰ることにした。
こんな事が起こるなら、来るのではなかったと後悔の念が亜希の頭に浮かぶ。