[東の国]の使者二名
【リーク・メル】:♂
⇒鬼畜王子。自分の父が嫌い。
⇒趣味はトルガいじり。
一人称は『僕』
【トルガ】:♀
⇒口悪奴隷。リーク以外には従わない。
⇒奴隷なのに決して平伏そうとしない、変わった奴。
一人称は『俺』
それは月のない夜のこと。
大国・アンドレシアからここ、東の国に1つの書簡が届いた。
内容は以下の通り
[魔族を倒すため、
其の国より使者を送られよ]
これにより、この国一番の変わり者コンビが旅立つこととなった。
*
こつ、こつ……長い廊下を歩く音が木霊する、とある晩。
勿論廊下の窓から見える空には月などなく、黒々とした闇の世界が広がっている。
と、足音が止まり、ただ静かな廊下には一人の青年の溜め息だけが響いた。
青年の目の前には無駄に施された装飾品のついた扉。その扉の前で青年は立ち往生している。
しかし中から「入れ」と威厳のある声が聞こえたため、青年は渋々といった面持ちで、されどドアノブを開き部屋の主へと向ける顔には、はりつけたような笑みが浮かんでいた。
部屋の主はこの東の国の王。
そして青年は、この国の王子である。
「なんの御用でしょうか、お父様」
やや引きつった笑みだが、それも気にせず青年、もとい王子の目の前にどっかりと椅子(これまた無駄に装飾が…)に座る王は、「うむ」と言って口を開く。
「実は同盟国である大国・アンドレシアから書簡が届いてな。魔族対処について話し合うため、東西南北各国から使者を集めているそうなのだ」
「へぇ、そうなんですか」
で、まさか僕に行けと言うワケじゃありませんよね?
口には出さないものの、王子の目が王にそう語っていた。
しかし王は鈍いらしく、そんな訴えも届かなかった。
「お前に行ってほしいのだ。我が息子、リーク・メルよ」
「…………はい。わかりました」
たっぷり間を置いて返事をする王子。
内心はきっと、『ふざけんじゃねぇ』
だろう。
王子の名は【リーク・メル】。
彼が鬼畜王子だということは、勿論王は知る由もない………
*
ギャア、ギャアー
カラスは早起きだと言うのは、どうやら本当のようだ。
ええい、朝からうるさいなと牛小屋の藁の上で丸まる少女。
彼女の手首と足首には鉄枷が。そしてそれぞれ両を繋ぐ鎖は見るからに重そうだ。
しかし、そんな彼女に近づく足音。
ざり、ざり、と地面の上を歩く音は、五感の鋭い彼女にとってうるさいものでしかなかった。
しかし、
「起きろ、トルガ」
「………チッ、もう仕事かよ」
絶対的な存在である主人の声なら、起きるしかないであろう。
牛小屋の外からコチラを覗く主人。
彼女の主人は一国の王子【リーク・メル】だ。
はて、主人とな?
実を言うと、彼女は奴隷である。
奴隷らしからぬ野蛮さ故、鉄枷と鎖さえ無ければどこぞの生意気娘かと言われる始末。
要は、一風変わった奴隷なのだ。
「なんだよリーク。まだ仕事の時間じゃねぇだろ。俺は眠いんだ……また後でな」
ふぁあ……と欠伸(あくび)をしては、もう一度寝床(藁の上)に体を沈める少女。
まったくもって、奴隷とは思えない態度だ。
そしてこの少女、奴隷として変わっているだけでなく、一人称が『俺』ということからも変わっている。
女として生まれたハズ、いやはやどこで間違ったのか。
そんな奴隷少女に、主人であるリークはにっこり笑って……
「今すぐ起きろ。今ここで血祭りでも盛大に行うか?」
「おはよーございますリーク様」
青筋ぴっきぴきです。
どうやら王子は低血圧のようだ。(え?そういう問題じゃない?)
というより、『盛大に』を強調するあたりが恐い。さすが鬼畜王子。