[東の国]の使者二名



【リーク・メル】:♂
⇒鬼畜王子。自分の父が嫌い。
⇒趣味はトルガいじり。

一人称は『僕』



【トルガ】:♀
⇒口悪奴隷。リーク以外には従わない。
⇒奴隷なのに決して平伏そうとしない、変わった奴。

一人称は『俺』




それは月のない夜のこと。



大国・アンドレシアからここ、東の国に1つの書簡が届いた。


内容は以下の通り



[魔族を倒すため、
其の国より使者を送られよ]



これにより、この国一番の変わり者コンビが旅立つこととなった。





こつ、こつ……長い廊下を歩く音が木霊する、とある晩。

勿論廊下の窓から見える空には月などなく、黒々とした闇の世界が広がっている。


と、足音が止まり、ただ静かな廊下には一人の青年の溜め息だけが響いた。


青年の目の前には無駄に施された装飾品のついた扉。その扉の前で青年は立ち往生している。


しかし中から「入れ」と威厳のある声が聞こえたため、青年は渋々といった面持ちで、されどドアノブを開き部屋の主へと向ける顔には、はりつけたような笑みが浮かんでいた。



部屋の主はこの東の国の王。


そして青年は、この国の王子である。

「なんの御用でしょうか、お父様」



やや引きつった笑みだが、それも気にせず青年、もとい王子の目の前にどっかりと椅子(これまた無駄に装飾が…)に座る王は、「うむ」と言って口を開く。



「実は同盟国である大国・アンドレシアから書簡が届いてな。魔族対処について話し合うため、東西南北各国から使者を集めているそうなのだ」


「へぇ、そうなんですか」



で、まさか僕に行けと言うワケじゃありませんよね?


口には出さないものの、王子の目が王にそう語っていた。


しかし王は鈍いらしく、そんな訴えも届かなかった。



「お前に行ってほしいのだ。我が息子、リーク・メルよ」


「…………はい。わかりました」



たっぷり間を置いて返事をする王子。


内心はきっと、『ふざけんじゃねぇ』
だろう。




王子の名は【リーク・メル】。


彼が鬼畜王子だということは、勿論王は知る由もない………





ギャア、ギャアー


カラスは早起きだと言うのは、どうやら本当のようだ。

ええい、朝からうるさいなと牛小屋の藁の上で丸まる少女。


彼女の手首と足首には鉄枷が。そしてそれぞれ両を繋ぐ鎖は見るからに重そうだ。


しかし、そんな彼女に近づく足音。


ざり、ざり、と地面の上を歩く音は、五感の鋭い彼女にとってうるさいものでしかなかった。


しかし、



「起きろ、トルガ」


「………チッ、もう仕事かよ」



絶対的な存在である主人の声なら、起きるしかないであろう。

牛小屋の外からコチラを覗く主人。

彼女の主人は一国の王子【リーク・メル】だ。


はて、主人とな?


実を言うと、彼女は奴隷である。

奴隷らしからぬ野蛮さ故、鉄枷と鎖さえ無ければどこぞの生意気娘かと言われる始末。


要は、一風変わった奴隷なのだ。



「なんだよリーク。まだ仕事の時間じゃねぇだろ。俺は眠いんだ……また後でな」



ふぁあ……と欠伸(あくび)をしては、もう一度寝床(藁の上)に体を沈める少女。


まったくもって、奴隷とは思えない態度だ。
そしてこの少女、奴隷として変わっているだけでなく、一人称が『俺』ということからも変わっている。


女として生まれたハズ、いやはやどこで間違ったのか。


そんな奴隷少女に、主人であるリークはにっこり笑って……



「今すぐ起きろ。今ここで血祭りでも盛大に行うか?」


「おはよーございますリーク様」



青筋ぴっきぴきです。

どうやら王子は低血圧のようだ。(え?そういう問題じゃない?)


というより、『盛大に』を強調するあたりが恐い。さすが鬼畜王子。