「だから、もう……いい。私が苦しくなるだけだもん」
腰をあげた美里ちゃんにわたしは視線をあげた。
わたしには視線を向けず、ただまっすぐと前を見つめている。
震えた小さなその声はちゃんと耳に届いた。
「郁磨なんてもういい。私だけを見てくれる人を探す」
「美里ちゃ……、」
「私のワガママにつきあってくれてありがとう」
一瞬だったけど、美里ちゃんがにっこり微笑んだ。
バイバイもまたねも何も言わずゆっくりと歩き出す美里ちゃん。
カツカツとブーツのヒールの音がどんどん遠のいていく。
わたしはさっきまで彼女が座っていたところから視線を動かせないでいた。
瞬きもしないでどれぐらいじっと固まっていただろう。
やっと振り返ったときにはもう美里ちゃんの姿はなかった。