「大上くーん」


洗面所から呼びかけても返事がない。

ちょっとちょっと。
まさか寝てるとかないよね。



「大上く-ん?」


「なに」


「うわ、びっくりした。返事ないから寝てるのかと思ったよ」


「トイレ」



あぁ、トイレ行ってたんだ。

鏡の前に立つわたしを押しのけて手を洗う大上くんにむっとした表情を向ける。


手だけじゃなくて顔まで洗い出した。

バシャバシャと勢いよくやるもんだから水が飛び跳ねる。


すぐとなりに立っていたわたしにもかかってるわけで。



「おーいー、大上くん」


「タオル」



柔らかい茶色の頭がすぐ近くにある。

抱きしめられなくてもこんな近くにいると香りってわかるものなんだな。