「き、昨日って……?」
訊ねながらも、頭を過ぎるのは右手に触れた唇の温度で―――
漂った沈黙に、心臓の音が反響しそう。
固まっている姉をよそに、弟は表情も変えずにつぶやいた。
「夕べ、夜食持ってきてくれたんでしょ」
「……へ?」
夜食?
瑞貴に毛布をかけようとして、サイドボードに置いたお盆を思い出す。
「あぁ、おにぎり、ね、うん」
「俺、いつの間にか寝てたみたいで……でもあの後起きてから食った」
「そ、そっか。それならよかった」
自分の声が乾いてぱさぱさしてる気がした。
姉の引き攣り笑いに気付いてるのか気付いてないのか、
瑞貴は無表情のままで、やがてふいとテレビに視線を戻してしまった。