「……足、洗ってくれば。ここ拭いとくから」
床に目を伏せたまま、瑞貴は声だけで促す。
「う、うん。ごめん」
言われるまま、少しよろけながら濡れた靴下を脱ぎ、私は急いでお風呂場に向かった。
心臓がばくばくうるさい。
服は脱がないままシャワーで足を流し、頭では瑞貴を思い浮かべた。
しゃがみこんだ瑞貴の黒髪から、ちょこんと覗いた小さな耳。
新しい靴下に履き替えて台所に戻ると、瑞貴はダイニングの椅子に腰掛けてテレビを見ていた。
牛乳が白く広がっていたフローリングは丁寧に拭かれてて、むしろ光沢すら放ってる。
「あ、床、ありがと」
言いながら瑞貴の横を通り過ぎて、朝食の支度に取り掛かろうとしたとき、
「昨日、ごめん」
低い声に身体がこわばった。
振り返って目に入ったのは、瑞貴の寝癖がついた前髪。
その下の大きな瞳に見つめられ、鼓動が早まる。