「沢井先輩」

「うん?」

「彼が来てます…」


そう言ってミヤちゃんが恨めしそうに私を見上げる。

その態度があまりにあからさまで、思わず苦笑してしまった。


「ありがとう」


お礼を言って振り返ると、受付カウンターの隅っこで久野先生がそわそわしながら立っていた。
 
私に気づくと、疲れた顔が少しだけ和らぐ。


「あ、一歌」

「どうしたの?」


勤務中に外科医がこんな場所に来るなんて珍しい。


「ごめん、今日も無理そうなんだ。小谷さんの容態が安定しなくて」

「あ、そうなんだ。わかった」

「ごめんな、代わりに今度――」


カウンターから身を乗り出す勢いの彼を、背後から女性の声がせっつく。