「――ごめん。今日も夕飯の支度があって」
家の事情のことは付き合うときに話してあったけれど、それでもやっぱり誘いを断るのは心苦しかった。
「まじか」
「うん……ごめんね」
何か思案するように前を向いたまま歩く石川君を申し訳ない思いで見上げていると、
「んじゃー家まで送る」
「えっ、いいよ悪いし」
「いいからいいから」
白い歯を見せて弾けるように笑うから、私もつられて笑った。
「ありがとう」
私の彼氏、石川君――石川真治(いしかわ しんじ)――はクラスは違うけれど同級生だ。
廊下ですれ違う程度にしか接点がなかった私に「一目惚れしたから付き合ってほしい」と声を掛けてきたのは彼の方だった。