「本気の愛を語るのは――あたしに反駁(はんばく)できるような知識と教養と経験を積んでからにしなさい!」
声が途切れ、瑞貴は唇を噛み締めた。
真っ黒に澄んだ瞳を揺らして、
「一歌は……いいのかよ」
私を貫く――
「俺が、他の女と付き合ってもいいのかよ!」
吐き捨てて、弟は階段を駆け上がった。
足音が遠ざかり、頭上でバタンと勢いよく扉が閉まる。
硬直、だ。
静まり返ったリビングで、エリカちゃんがどんな顔をしているのか分からない。
そこまで気を回す余裕がなかった。
瑞貴の捨て台詞が、頭を占領して……涙がこみ上げる。