廊下でも体育館でもそこら中に明るい笑顔が咲いていて、声をひそめて噂話をしている生徒は皆無だ。

安心したけど、少しだけ拍子抜けだった。


……石川君、何も言わなかったのかな。


体育館での始業式が終われば今日は何もすることがない。


ユリやみなみ達と「カラオケに行こうか」なんて話しながら教室を出たとき、廊下の向こうから騒がしい集団が近づいてきた。


ギターかなにかのケースを抱えた男子たち。

学年でも目立つグループのひとつ、軽音部の集まり。


その中に、ふわふわ頭の彼の姿もある。


仲間と楽しげに話しながら歩いていた彼が、ふと私に気づいた。


「あれ? 一歌の彼氏じゃないのー?」


何も知らないみなみがつぶやき、


「みなみ、カラオケ行こうよ早く。混んじゃうよ」


即座ににユリが話題を変える。


でも親友のフォローに感謝する余裕はなかった。