「おかえり……」
 

眠たそうにつぶやく。


「寝てたの? なんでこんなとこで――」
 

不意に伸びてきた手が私の右手に触れた。


長い指がさわりと手のひらを撫で、頼りなげに中指を掴む。
 
その優しくて妖しい動きに鼓動が早まった。



風が抜けても部屋の中は蒸し暑い。

そんな中で、弟はベッドに身を沈めている。

今にも呼吸を止めてしまうんじゃないかと思うほど、儚い視線をよこしながら。



「嫌いに、なった?」 

「……え?」



聞き返すと、瑞貴は切なげにまぶたを閉じた。