「塾……行ってくる」
合わせる顔がないというように弱々しく言った弟に、私は微笑んだ。
「いってらっしゃい」
さすがに責任を感じたらしく、キスを目撃された一件以来、瑞貴はあまり私に触れてこなかった。
ただ、捨てられた子犬のような目で、そっと顔色をうかがう。
目撃されたこと自体は迂闊だったけれど、私は瑞貴のせいだとは思ってない。
今回のことがなかったとしても、きっといつか何らかの形でこういう事態に陥っていたはずだから。
だから、きちんと考えなきゃいけないんだ。
きちんと――
高校生の私より少し遅れて夏休みに入ると、瑞貴は毎日塾の自習室に行くようになった。
環境も整っているし、ぴりぴりした空気が漂っていて家よりも集中できるらしい。
私は私で、昼間に用事を済ませたり、遊びにでかけたり。
考えなきゃと思っているわりに、いい考えなんて浮かんでこないまま、暑い日々が過ぎていた。