「ちょっと瑞貴、なんで逃げんのよー」



居間と台所の間で仁王立ちをして、エリカちゃんが唇を尖らせる。
 
その姿は細くて背が高くマキシスカートがよく似合ってて、本当にモデルみたい。

にもかかわらず、瑞貴はエリカちゃんと目を合わせない。


「最近どうなの? 彼女はできた?」 


そんな質問に私の方が動揺しても当の弟は表情を一切変えず、むしろエリカちゃんの存在をあっさりと無視して私を見る。


「塾の時間まで、部屋いるから」


そう言って、さっさと階段を上がっていった。


「ちょっと!」
 

2階に消えていく背中に向かってエリカちゃんが声を上げる。

それでも立ち止まることなく、弟は自分の部屋に入っていった。


瑞貴は多分、制御不能なモノが苦手だ。

エリカちゃんといい、隣の奥村さんといい、理解の範疇を超える動きをする人を、とことん避ける傾向にあるらしい。