「一歌は知らないんだよね? シトウのこと」
 

そう言ったエリカちゃんの目はいつになく鋭かった。

いつものキラキラした光は影を潜めていて、なんとなく恐い。


「……どういうこと?」


シトウのこと、知らないって……。
 

司藤大地は、バスケ部のエースで、ルックスが良くてファンクラブがあって、頭もそこそこ良くて、ユリの彼氏で――

ひとつずつ挙げていくと、エリカちゃんの細い眉が眉間に寄った。


「それは表向き、ね」

「え……?」
 

茶色の巻き髪をさらりと揺らし、姉は目を細めて妹を見る。


「この子、ほぼ毎晩、部屋で泣いてんのよ」


耳に入った言葉は、うまく消化できないまま脳に留まった。


「泣いて、る?」 
 

ユリはうな垂れたままで、その表情を窺うことができない。 


「隣の部屋だから、イヤでも気付いちゃうわけ。夜中にすすり泣きとか、幽霊キタよ! ってテンション上がったのにさー、ユリに教えようと思って部屋に踏み込んだら、何のことはない、こいつが泣いてて一気に気持ちが落ちたっていうか」

「……」