「で、誰だって?」
2人きりになったせいか、さっきよりも石川君の表情に感情が表れている気がした。
眉が歪み、唇の端が微かに震えてる。
「誰を好きになったって?」
恐い……
爆発直前の爆弾を前にしてるような、こころもとない気持ちになった。
こんな威圧的な空気、はじめてだ。
石川君はいつもほがらかな笑みを見せてくれていたから。
小さな恐怖と、戸惑いに心臓が揺れる。
でも、悪いのは石川君じゃない。
彼にこんな顔をさせてる、あたしが悪いんだ――
窓から風が流れ込んで、淀んだ空気をかき混ぜる。
蒸し暑さは多少やわらいだけれど、教室内は依然としてぴりぴりしていた。
空気中に電気の粒子が飛散しているみたいに。
少しでも動いたら、身体中に電流が走って、焼け死んでしまうんじゃないかと思うほど。
そんな空気の中、石川君の声はまっすぐ渡ってくる。