「ごめんなさい、好きな人が……できたの」
 


声を振り絞る。
 

私の中ではこれで終わりだった。

 
けれど、石川君は追及の手を緩めない。



「……誰?」

「え?」


「相手、誰?」


石川君の顔は乾いたまま固まってしまったように無表情だ。


「あの……」
 

言えないよ。
 

弟を好きになった、なんて。


「ごめんなさい」 
 

謝ると、不意に腕を掴まれた。


「ちょっと、来て」

「えっ、どこに」

「こんな人目につく場所で話すようなことじゃないだろ」
 

廊下の向こうから購買帰りの生徒がぞろぞろと戻ってくる。