「弁当……。今日は父さんの分、いらないんじゃね?」


瑞貴の言うとおり、父親は出張中で帰ってくるのは今日の夜だ。


「あ、うん。間違えていつもどおりに作っちゃって」


もったいないから、石川君のお弁当にしようと思って、とは口に出さない。

そんな私に、弟は思いがけない言葉を放つ。


「じゃあこれ、俺がもらっていい?」

「え? だって、学校でお昼出るでしょ」
 

目を合わせないよう、お弁当箱を見つめたまま言うと、瑞貴は再び冷蔵庫に向き直った。


「今日塾だから、学校終わってから食う」

「でも……」


今日は確か天気予報で気温が上がるといっていた。

冷房の効いていない教室に置いておいたら傷むんじゃないかな、と心配していると、


「俺もたまには一歌の弁当が食いたい」


そんな声が聞こえて、つい顔を上げてしまった。

少し不貞腐れたような表情の弟と目が合い、頬が熱くなる。