雑多な都会というほどではなく、かといって辺鄙(へんぴ)な田舎でもない。
程よい緑地にのどかな住宅街。
その中に埋もれるようにして建っていた新しい一戸建ては、真っ白な壁と、明るい窓辺と、温かな光に満ちていた。
当時10歳の私は知る由もないけれど、それはお父さんがかなり頑張って建てた家で。
一階にリビングと両親の寝室があって、二階に私と弟、それぞれの部屋。
決して広くはないけれど、家族4人が暮らすには十分な環境で、
私たちはこれからの幸福な未来を信じて疑わなかった。
――数週間後、母親が亡くなるまでは。