混乱しながらその胸を押しのけようとすると、それを察したかのように弟はすっと離れた。
すでに中学の制服を着ていて、通学カバンもしっかり斜めに掛けてある。
「な……」
呆気に取られていると、瑞貴はやや視線を落として「行ってくる」とだけつぶやいた。
そのまま朝ごはんも食べずに玄関へと向かっていく。
廊下に消えていく背中を見ながら、私はへなへなとその場に座り込んだ。
「な、な……」
なに――?
冷蔵庫にもたれたまま、指先を唇にあてた。
そこにはまだ、瑞貴の柔らかな余韻が残ってる。
あんな、振り向きざまのキス。
まるで、朝の挨拶みたいに――