私は最強ビンボー女!

「それ・・・今言う?」


私極力思い出したくないんだけど。

ていうか、今ではあれはタチの悪いドッキリなんじゃないかと思ってるんだけど。




「アハハハハハっ!!!」


笑い声の方に顔を向ければ、佐奈がお腹を抱えて笑っていた。



「う、わぁ、さっすが青菜・・・ふはっ、マジ、ありえないっ・・・くくっ」


「なんかもの凄く失礼な気がするんだけど。」


「褒めてん・・・のよっ」


「笑いすぎて生き絶え絶えの奴に言われて褒められた気がしねーよ。」



なんだってんだ。ったく。


と、周りを見れば、なんか日岡さんと葉月も笑ってた。


くそっ!なんか失礼な気がする奴がこんなにっ・・・!!!




「さ、さすが青菜様ーっ!!!お、っとこまえーひゅーっ」


ナァちゃんから尊敬の眼差しを頂いた。

うっれしーい!



「ふふん!そうでしょそうでしょ!」


「はい!もう男にしちゃいたいぐらいです!」


「あぁ、色気皆無だものね。」


「・・・佐奈は黙っててくれるとありがたいな、私。」


とっても切なくなってくるから。




えぇーい!

私の繊細な心がこれ以上傷つけられてたまるかっ!


とにかく!!!


「てことで行くぜ彼方!」


「なんでお前に仕切られんだよ。」


「・・・・・・男前、だから・・・くっ」


「自分で言って自分で傷つくなよ。めんどくせぇ。」


「あぁ、私の繊細な心がぼろぼろだ・・・。」


「「「「どこが繊細?」」」」


日岡さん、葉月、佐奈、彼方の4人から鋭すぎるツッコミを頂いた。

私の扱いが酷すぎる・・・!!!



「もう行こう、緋月ちゃん!」


「う、うん・・・?でも、どこに行けばいいかわからないよ?」


「・・・・・・彼方、来いや。」


「あーっ!前言撤回!やっぱ陽がコイツに惚れた理由わかんねぇ!」


「・・・それ、今言う?」


「つか、陽不憫すぎる。」


「え、なんで?」


「お前のせいで。」


デコピンを頂きました。

くそぅ、この野郎、本気でやりやがった。痛いぜ。



「行くぞ!」

彼方は、真っ直ぐに前を見て言った。




「おうよっ!」


「はい!」


「了解!」


私、緋月ちゃん、葉月が声を張り上げた。



ちらりと日岡さんを見れば、肩をすくめた。


葉月のこと、よろしく。

ぱくぱくと、口パクで言われた言葉に、こっくり頷く。


日岡さんも、後片付けよろしく。

ぱくぱくと、口パクで返せば、苦笑いを浮かべつつ、日岡さんも頷いた。


佐奈の方を見れば、行ってきな、とで言うように、くいっと顎を突き出された。

ナァちゃんは、にこにこと手を振る。




――うん、大丈夫。


日岡さんも、佐奈も、ナァちゃんも。

私達のこと、信じてくれてる。





「行って来ます!」


にっと不敵な笑みを浮かべて、私は彼方の後を追った。



「ホント、馬鹿な女どもだな。」


彼方からぼそっとこぼされた言葉。

私と葉月と緋月ちゃんは、顔を見合わせて、くすっと笑った。




そう。

私達、どうしようもない、馬鹿なんです。




でもさぁ・・・


「彼方も馬鹿なんじゃないの?」


「はぁ?青菜ほどの馬鹿に言われたくねぇんだけど。」


「やっぱかわいくねぇ。」


「お生憎と、可愛さは求めてないんで。」


「そんなんじゃモテ・・・てるな、くそっ!」


「別にモテたいわけじゃねぇけど。」


「・・・お前、今全国の約9割の男子高校生を敵に回したよ?」


「あっそ。別に俺強いし。」


「うーわ、嫌味ー。

でも馬鹿でしょ、彼方も。」


「だから青菜には「根本が同じとか言っておきながら、私達の意見聞くんだもん。」



遮って紡いだ言葉に、彼方が眉をひそめる。


「何、嫌ならこのままお帰りになってもいいんだぜ?」



緋月ちゃんを気づかってゆっくり歩いてる私達。

緋月ちゃんを支えながら、彼方は器用に片手を出入り口のある方向へ差し出す。



「お帰りになりたいとこなんだけど・・・私、哉の彼女だし?」


「お前のそれはマジなのか?

彼女ならこんな状況になる前に知ってるだろ?色々。」


「いやぁ、私と哉の関係はちょっと複雑なんだよねぇ。」


「へぇー」

うわ、彼方棒読みー。




「ちょっとぉ、私傷つくよ?」


「・・・やっぱ嘘だろ、お前が哉の彼女って。」


「本当ですけどー!」


「全然傷ついてねぇじゃん。」



彼方が射るように私を見る。

全てを見透かすかのように、じっと。




「驚きも傷つきも悲しみもしない。

キスをするときも、嬉しそうな顔一つしなかった。

それで彼女ってのは無理があるだろ。」


「別にこういう彼女がいてもいいでしょ?」


「・・・青菜が哉に恋愛感情をもってないってことはよく分かった。」



うん、まぁ、確かに無いけども。


「でもいいじゃん、お互いが了承してんだし。」


「確かにそんなのお前らで勝手にやってろって思うけど。」


「けど、何よ。」


「陽を思うと「・・・それ、今言う?」

・・・お前、そればっかだな。」



呆れたように彼方がため息をはく。


「不憫よねぇ。」

同調するように葉月は頷き、緋月ちゃんまでかすかに頭を縦に動かした。



な、なにさ・・・私が悪いみたいやんけ。

私、今日初めて知って、思わず世界の不思議についてまで思いを馳せちゃったんだよ!?




むぅー・・・と、ふて腐れていると。


「なんで彼女だったんだよ?」


彼方が横目で私を見ながら聞いてきた。



「なーにが?」


「がっつり関わるのは、友達でも仲間でもいいだろうが。」


あぁ、まぁ、そうね。


「・・・ちょうどよかったというか。」


「はぁ?」


「私も彼氏ほしかったんだよね~」


軽く笑って答えれば。




「消えろよマジで。」



マジな目で言われた。







「・・・・・・私、消えてしまうかもしんない・・・。」


「この問題片付けてからにしてね。」


「葉月、普通そこは止めるところでしょう。」


「へぇ。」


私の心にぶすっと刺さったぞ、その言葉。

そのおざなりな言葉っ!!!



うぅぅ・・・と、悲しみに打ちひしがれていると。





「陽の気持ち知った上で言ってんのか、テメェ。」


彼方の、今にもぶっ殺してやろうかアァン?的なドスの聞いた声が聞こえた。



「そ、そんときは知らんかったし。」


「へぇ、でも知った今でも彼女だって言うんだ?」




――陽の、真っ直ぐな目が、不意に、脳裏に蘇る。


嘘だ、と思った。

嘘だ、と、思いたかった。



だって、






「うん、言うよ。」




私には、その瞳を見つめ返す覚悟がない。


怯えたまま、勇気を持てずに、逃げたまま。



――温もりなんて、一番なんて、いらない。

だってどうせ与えられない。




そう、思ってたんだ。思い込ませてきたんだ。


それを、その思い込みを、180度変える覚悟なんてない。

180度変えて、あの瞳を真っ直ぐに見つめ返す勇気なんてない。



戸惑う。

これでもかっていうほどに。

戸惑って・・・怖れてる。




その瞳は、本当に私を見てる?私を映してる?


私に"誰か"を重ねてるんじゃないの?

――糞親父のように。




「なんでだよ?

彼氏が欲しいんなら、女ったらしの哉より陽のほうが何百倍もいいだろ?」


「女ったらしの方がいい。」


「M?」


「そうかもね。」


素早く返事をして、にっと笑う。

この話はこれでおしまいって意味を込めて。


彼方が不満げに眉をひそめる。



「・・・陽に、返事はいつすんの。」


「したようなものじゃん?だって私は哉の彼女だよ。」


「陽は納得してねぇだろ。そんな恋愛感情皆無の彼女なんて。」


「陽は納得してなくても、私と哉はしてるもん。」


「はぁ・・・陽、マジ不憫。」


「諦めちゃえばいいのに。」



思わず漏れた呟き。

ハッとしたときには、もうすでに彼方が私をじっと見ていた。


何もかも見透かすかのような瞳が、真っ直ぐに向けられて、少し痛い。



「諦めてほしいんだ?」


「べ、べつにそんなわけじゃ・・・ない、わけでもないような・・・?」




「どっちだよ。」


「あは?」


彼方のツッコミに、曖昧に笑う。





――諦めちゃえばいいのに。


それは、私の本心だ。

だって、疲れちゃう・・・・。




『疲れない。俺は、それを疲労だとは思わない。』



不意に蘇った陽の声。

思いのほか心に刺さったのは――



それほどの思いだということに、驚いたからか。

陽の真っ直ぐな瞳に、怯んだからか。


それとも。



そう、真っ直ぐに言える陽に・・・くらくらするほど、憧れたからか。





――ねぇ、陽。

全く全然子犬クンじゃなくなっちゃったけど。

根っこの方は、変わってなかったんだね。






『青菜の方が・・・真っ直ぐだ!!!』


陽のほうが、真っ直ぐだよ。

私の胸が、痛むほどに。