私は最強ビンボー女!

自棄(ヤケ)になったらしい青菜はそのまま唇を尖らせて、そっぽを向いて言った。



「そうだよ。陽は馬鹿なんかじゃないもん。

勘違いで好きになったりしないよ。

そんで、好きになったら今度は馬鹿みたいに真っ直ぐに一途に想うんだ。

だいじょーぶ。想像できまくりだから。」


「そうか。じゃあ、諦められないってのも分かるな?」


「・・・・・・想像は、できますけど。」



じっと青菜は俺を見る。

探るような眼差しは・・・何かを迷っているみたいだった。




「だけど私、今哉の彼女なんだよ?」


「関係ない。」



ばっさり切り捨てた。

そう、そんなものどうってことない。




「奪えばいいだけだろ?そんなの。」


「・・・・・・はっ・・・?」


ポカンとした青菜に、不敵に微笑んだ。



「俺、哉なんかより魅力はあるって自負してるんだが?」


つっ・・・と、青菜の頬に指を滑らせる。



「・・・・・・なっ・・・」


カァッと青菜が頬を紅くさせ、ずざざざざっと後ずさりした。




「い、いい色気をだすんじゃないっ!はしたない!」


「今出さなくてどうするんだよ?」


「どうもしなぁいっ!というか子犬クンどこいった?!」


「ふ・・・いつの話をしているんだ?」




微笑んだ。


青菜がこんなにも動揺するということは・・・希望アリと見ていいだろう?



「と、とにかく!

私は今哉の彼女なので!ほら、行くよ哉!」


「えー?もうちょっと見てたかったな、俺。」


「面白がってるでしょ哉!

仮にも彼氏なんだから、嫉妬しろ!嫉妬!!!」



ぎゃんぎゃんと言い合いながら2人が出て行こうとした――ところで。





「・・・・・・哉、どういう意図?」


ふっと言葉を投げかけたのは、それまで黙っていた土井だった。




「意図?何言ってんだよ翼~。そんなのねぇって。」


へらっと哉が笑う。

そんな哉を見て、青菜がすぅっと目を細めた。




「・・・ホント上手いね。」


ぽつりと呟かれた言葉に、哉はニッと笑う。





「それはお互い様だろ?」


「まーね。」


クスリと青菜も笑うが・・・その目は笑ってなんかいなかった。

じっと哉を見つめてる。


そして視線を哉に向けたまま、翼へ言葉を放った。



「翼、意図があるとしたら、それは私の方だと思って。

言いだしっぺは私だから。」


「へぇ?」



土井が目を細める。


「青菜、意図、あるんだ?」


「――――さぁ?」




青菜は口元に微笑を浮かべたままはぐらかし、その後・・・俺を見た。

何か言うように口を開いたけれど、すぐにまた口を閉ざした。


青菜は結局そのまま、哉の手首をむんずと掴んで屋上から去って行った。






「・・・・・・あーあ。」


ぽつんとため息のような声を漏らしたのは、土井。


俺を見て、不服そうに唇を尖らせた。


「観察してるうちに先、越された。」


「知るか。」


俺は、吐き捨てた。





―陽side end―
―青菜side―



世界は不思議に満ちている。

勿論、驚きにだって満ちてるけど。






「哉ぁ、今夜いいぃ~?」


「ん?オッケーオッケー♪どこでやる?チュッ」


「んっ・・・アタシ、前行ったあそこのラブホがいいっ」


「あそこ?どこだ?」


「忘れちゃったのぉ?ひっどぉい!」


「わりぃ。

ったく、怒った顔も可愛いな。」


「・・・・・・//////」







・・・・・・・・・・・・なんだこの状況。




私、倉本青菜――いや違う。今は橋本青だ。


えーっと、俺?橋本青は只今絶賛困惑中。




まさかの校門前。

いつものごとくキャーキャー言ってる周辺の女子生徒。


・・・の、中から現れたバッチリメイクのおねーさん。


哉に甘ったるい声で今夜の予約?とやらを今取り付けてるらしい・・・んだけど。





哉ってこんなモテたんだなー・・・じゃなくて。

ここは彼女として・・・いや、今は彼氏か?


とにかく!付き合ってる者として何か反応すべきじゃないか?




だがしかし。


さっきも言ったとおり今は橋本青。

ここで何やら言ったら哉がアッチ系のお方だと思われることは必須。



ついでに言えば、橋本青は葉月と付き合っているということになっていて。


それで女の子からの告白を回避してきた身としては、それが崩れることは避けたい。


私が哉と付き合ってるとなったら、葉月がフリーってことになるからね!





・・・・・・うーん・・・どうすっかなぁ。


なんかこの状況を陽と翼がガン見してるしなぁ。








―――――陽・・・。


今日、こ、ここ、告白、された・・・んだよね?!




・・・・・・・・・世界、不思議に満ちすぎてるって。


あの陽がだよ?!



見てよ!

今だって女の子達が大勢!!!可愛い子いっぱい!!!

それなのに・・・私に告白したんだよ?!





・・・・・・ありえん・・・。




「もぉアタシ待ちきれないぃ~!

哉ぁ、今からは駄目ぇ?」


「どうしよっかなぁ。」




・・・・・・・・・・・そういや、よく考えたら哉もありえねーな。


普通さ、彼女の目の前で他の女とイチャつくか?!いやイチャつかぬ!!!



いや、そもそもそれをガン見してる私が駄目か!!!

くそぅ・・・がっつり関わるって決めたのに・・・あぁでもこのまま話しかけたら色々問題が・・・・・・




「・・・・・・ぐぬぬぬぬ・・・」


「キャーッ!!!青様どうされたんですかっ?!」

「何かあったんですか?!救急車呼びますかっ?!」

「大丈夫ですか?!」

「私でよければ何か「ちょっと!あなた抜け駆けするんじゃないわよ!」」

「そーよ!青様、私が!!!」

「あんたもよ!」



ぎゃいぎゃいぎゃいぎゃい。


女の子達の喧嘩勃発。





あぁどうしよう。

なんか更に問題が増えちゃったよ・・・。


しかも怖いし!

私にどうしろって?!





モテる男はツライぜ☆って私女なんですけどねぇえええええ!!!


うわぁん。

もう支離滅裂だぁ。





「救急車?馬鹿な発想するのね。

そこの男はただなんか考えて行き詰って頭抱えてただけよ。

心配は無用。


・・・ってことで、早く通しなさいよ。ブス共が。」



・・・・・・・・・・・・わぁ。

女の子達かっちぃんと固まりました。



そして固まった女の子達をかき分けて悠々とやってきたのは――





「佐奈・・・。」


「ったく。ぎゃあぎゃあうるさいわね。

私を通さないなんて、何様のつもりかしら。このブス共。」


「いや、お前が何様だよ。」



佐奈の毒舌は絶好調らしい。

なんかもう素晴らしいよ。



「何様?佐奈様に決まってるでしょう。

というか、早く行くわよ青。

わざわざ私が出向いたんだから、感謝しなさいよね。」



さらっとツッコミをかわし、ぐいっと佐奈が私の腕をとった。


そしてそのままずんずんと歩き始める。





「ちょ、佐奈待って!どこ行くの?!」


私はまだ哉の野郎と話せてないんだって!




「どこ?ここの最寄り駅前のカフェ。」


「なんでそんなとこに!」


「緊急事態なのよ。」


「緊急事態?」




佐奈が、ぎゅぅっと私の腕をつかむ力を強めた。



「・・・・・・小野緋月が、行方をくらませた・・・。」





――――――な・・・!?




「緋月ちゃんが!?嘘でしょ?!」


「本当。こんな嘘誰がつくかっての。」





た、確かにそんな嘘誰もつかない・・・っていうか、つきたくもないっ!!!



「いつから?いつから行方が分からないの?」


ずんずん進む佐奈についていきながら、必死に聞く。




「ナァ情報によれば、最後に朝霧緋月の姿を誰かが見たのは――昨夜の11時。」


「な―――――っ!?」






昨夜から姿を見た人がいない・・・?


それって―――




「ちなみに。小野家の奴らが緋月の姿が見えないことに気付いたのが、今朝6時。

そしてそのことをナァが知ったのはついさっき。

ナァの情報網をもってしても知れたのがこの時間だということは・・・かなり厳重に隠されてるってこと。」



佐奈は静かに話し、唇を歪めた。





「・・・で、ナァによると、おそらく誘拐されたんだろうと推測されてるようよ。」


「ゆ、誘拐?!」


「うるさい!」



思わず大きな声が出た私に、佐奈がガツン!と怒鳴る。


慌てて口を押さえれば、佐奈が声を潜めて言う。





「・・・葉月にはもう伝えてある。」


「あ、あぁ、だからか。葉月の姿が見えないの・・・。」


「そう。

それでね青菜。ここからが重要なところなんだけど。」


「うん?」



佐奈がピタッと足を止めて言った。


私と佐奈の目の前には、黒塗りの高級車。

これは確か、日岡さんの車だ。