私・・・・・・まだまだ弱いみたいなんだ。
「まぁ、確かにヤバイよなぁ。哉が改心でもすりゃあいいけど・・・。」
翼がぼやいたところで、今まで黙って聞いていた緋月ちゃんが、おそるおそるというように口を開いた。
「あの・・・そんなに、その2人って問題あるんですか?」
「「「「・・・・・・・・・。」」」」
「・・・私、お父様から、2人は容姿端整で頭脳もあり、愛想もいいから安心しろって言われたんですけど・・・・・・。」
「いや、まぁそれはあっているが。」
確かに2人とも顔はいいわな。
そんで・・・頭もいいの?うっわ。羨ましー!
愛想もいいってのは・・・うーん、哉は分かるけど、彼方が想像つかない。
でも、陽があってるって言ってるんだから、そうなのか。
やっぱ一応そこは金持ちだし、色々あるんだろうしね。
――とはいえ。
「ぶっちゃけ、性格はちょっと問題ありなんだよねー。
女への気持ちについて、だけど。」
苦笑いをしながら言えば、緋月ちゃんが首を傾げた。
「女への気持ち・・・?」
「うん。双子の兄貴の方は女遊びが激しくて、弟の方は、極度の女嫌い。」
緋月ちゃんの目が見開かれた。
「正反対、なんですね。」
「そうそう。不思議だよねぇ。」
うんうん頷けば、翼が首を振った。
・・・・・・え?
「何、翼。正反対でしょ?」
「やってることはな。けど、根本的には同じなんだよ。」
「同じ?」
どういうこと?
だって、全然違うでしょ。女好きと女嫌いじゃ・・・・・・って、あ。
「どっちも女にコンプレックスを抱いてる、ってこと?」
「ビンゴ。さっすが青菜。」
ニッと翼が笑う。
・・・確かに、女に対して強い気持ちがあるっていうのは、同じ。
「でも、やっぱ正反対じゃん?嫌いと好きなんだからさ。」
「そうでもないんだな。コレが。」
翼がふっと笑う。
その微笑みは、どこか寂しそうで・・・切なそうに見えた。
「・・・ふぅん。そうなんだ。」
呟いた。
これ以上は聞かない。というかたぶん、聞いても答えてはくれないだろう。
これ以上は話せない。
そんなふうな微笑みに見えたから。
「ま、なんにしろ、緋月の相手にはしたくない奴らってことよ。
アイツらと緋月が同じ空気を吸うって考えるだけで鳥肌たつ!!!」
葉月もそれを察したのだろう、あっさりと話題を変える。
にしても、葉月、さすがにひどすぎるって。
嫌なのはわかるけど。
「あー!!!そんな奴らに恩を売ったってのが、我慢ならないわ!
それさえなければ、どうとでもできたのに・・・!」
葉月さんは本気だ。
マジの目をしてらっしゃる。
「・・・・・・こうなったら・・・」
ギラリ
葉月の目が不穏な光を放った。
陽と翼が、スッと背筋を伸ばす。
対する緋月ちゃんはキョトンと首をかしげている。
・・・って、緋月ちゃん!なんで葉月のこの気配でキョトンなのぉ!?
緋月ちゃんの天然さにショックを受けている中、葉月の声が部屋に響いた。
「緋月の見合いに乱入するわよっ!!!」
――――――――――――――――――――――――――――・・・・・・
――ドサッ
寂(サビ)れた街灯が、消えたり点いたりを繰り返している。
静かな静かな闇の中、私はつと夜空を見上げた。
雲が空を支配していて、星はおろか月も見えなかった。
「・・・・・・テ、メェッ・・・」
「あぁ、まだ意識があったのか。面倒臭いな。大人しく倒れていればいいものを。」
――ゴッ!!!
ふらふらと立ち上がろうとしていた男の頭に、躊躇なくかかとを落とした。
男は呆気なく地面に突っ伏する。
私はポケットからするりと携帯電話を取り出し、健一さんに電話をかけた。
――プルルル、プルルル、プルルル・・・プッ
《もしもし健一でーす!》
「狩人です。狩ったので、来てください。」
《はあーい!今すぐいっきま~すぅ!》
「・・・・・・よろしくお願いします。」
プツッと通話を終了させる。
・・・なんか、健一さんのテンションが妙に高かった気が・・・・・・。
気のせい?気のせいだよね?
・・・まーいっか。
別に大したことじゃないでしょ。
うんうんと頷き、周りを見渡す。
「うはぁ。我ながら今日も頑張ったなー。」
―――杞憂さんからお仕置きを下された日から、今日で5日がたった。
私は生活のため、毎夜"狩人"として狩りまくってる。
今日も見て!!!
足元にはギャル男チャラ男不良野郎・・・等々、結構な人が倒れてるよ!
ふふん。さすがは最強青菜様、ってとこだね!
ニヤニヤしてると・・・・・・ポンッて肩に手が置かれた感覚が。
・・・真夜中。独りぼっち。人気のない路地裏。無言で肩に置かれた手。
頭の中では妙にリアルな黒髪の女の人の幽霊が・・・・・・。
「ひっ・・・あああああああああ!!???」
――ゴッ!!!!!!
恐怖のため、無意識に背後の何者かに頭突き。
・・・いい音がしました。
「・・・・・・ってぇー!!!」
と、何やらどこかで聞いたことのある声が。
パッと振り返ればそこには――
「あっれー!?哉じゃん!」
紅狼幹部の哉がいました!
「いやいや青菜。あっれー!?じゃないだろ!なんでいきなり頭突き!?超痛かったんだけど?!」
「あれ!?そういや、私の肩に手を置いた黒髪の幽霊は!?」
「・・・は?幽霊?」
ポカンとした顔をする哉に、首を傾げた。
「ん?どした哉。もしやおぬしも幽霊怖いのか!?」
そしたら仲間じゃん!うっわ、うれし「あははははっ!」
・・・・・・・・・どういうことだろう。
なんかめっさ笑ってるんですけど。
私見てゲラゲラ笑ってるんですけど。
なんか無性に腹たつんですけど。
え?どうしよう。狩ってやろうかな。
なんかムカつくし、狩っちゃおうかな。
半ば本気で考え始めた時――
「あー、ごめんごめん。青菜の肩に手ぇ置いたの、俺。」
なんか聞き捨てならない言葉が聞こえた。
・・・私の肩に手ぇ置いたの、哉?
素早く変換した私は、躊躇(タメラ)いなく哉の胸倉を掴む。
「・・・・・・ふざけてんのかテメェ・・・。」
「ちょ、青菜!?え、なんでそんな怒ってんの?!ほんの遊び心じゃん!」
「バカヤロー!遊び心だとっ!?私は恐かったんだからな!」
「・・・・・・・・・・えっ・・・。」
哉が目を見開いた後、ニヤニヤ笑い始めた。
「へぇー?青菜、怖かったんだぁ?アレだけで?
へぇーふぅーんそーなんだぁ。かっわいいね~。俺と付き合う?」
――ゴッ!!!
・・・・・・・・ムカつくのでとりあえず殴っておいた。
「いってー!暴力反対!」
「うっさい!!!私を茶化すな!からかうな!」
「はいはい。もう、ホント青菜はしょうがねぇな♪」
「・・・もう一発いっとく?」
「いや、やめとく~☆」
へらへら笑うチャラ男哉。
ったく、本当コイツは・・・。
呆れつつも、そっと哉の瞳を見つめた。
・・・・・・・・・ふぅん。
「そんなに怖い?」
淡々と聞いてみる。
哉がへらへら笑ったまま首を傾げた。
「何が?俺に怖いものなんてないぜ?・・・怒った翼以外な!」
「へぇ、そうなんだ。」
さらりと相槌をうったのち、真っ直ぐに、射るように哉の瞳を見つめた。
「でも、本当は他にもっと怖いものがあるんでしょ。」
疑問、ではなく、断定する口調。
哉の目が細められる。口元は笑みを浮かべたままだ。
答えを待たずに、言葉を紡いだ。
「ねぇ、それって"女"だよね?」
哉の口元から笑みが消える。
細められた目は、凍てつく光を宿した。
そんな顔も、するんだ。
哉、そんな顔を向けるときもあるんだ。
それは純粋な驚きだった。
暴走族の幹部なんだから、冷ややかな顔をすることぐらい想像ついてた。
だけど、やっぱり驚く。
普段の哉と180度違うから。
「・・・翼から聞いたわけ?」
「別に?ただ、彼方と哉は根本的には同じだっていうことは聞いたけど。」
「ふーん。根本的には同じ、ねぇ・・・。
見なくていいとこよーく見てんだな、俺らの総長は。」
「見なくていいとこなんだ?」
「・・・突っ込むねぇ。そんなに、俺のこと知りたい?」
「うん。知りたい。」
私の返事に、哉が目を見開いた。
あれ。そんな驚くとこ?
私は首をかしげながらも言った。
「だってさ、私、哉に助けられたみたいだし。
それにクラスメートの中じゃ、仲いい方・・・っていうか、色々知ってる方だからさ。
もっと知りたいなぁって思う。
・・・それに、緋月ちゃんのお見合い相手だしね。」
「え?緋月ちゃんって・・・小野緋月?なんで知ってるの?」
「葉月の双子の妹ちゃんだから。」
「は?双子!?」
・・・なんで、こんなに皆知らないんだよ。
「そう!訳あって小野家と絶縁されちゃったけど、緋月ちゃんの双子の姉であることは変わらない。
だから、知ってるし、お見合いのことは気になる。」
しっかりとした口調で言い募れば、哉は静かに頷いた。