なんていうドスの聞いたお声により、べりっと翼から離された私。
ありがとう陽。
私にはあんたが天使に見え―――ませんすみません。
なんで今度は陽が私を後ろから抱きしめているんだ。
何これイジメ?
いたいけな恋愛経験値ゼロの乙女をからかって遊ぶイジメですか?
「青菜・・・。
こいつに近づくんじゃねーよ。
お前に触れていいのは、俺だけだろ?」
突如耳元で囁かれた声は、甘くて、切なげで、妖艶で。
心臓ちゃんがまたもや騒ぎ立てる。
~~~なんなのこれ!?
ホント私が一体何をしたって言うんだ!
ぐんぐん体温が上昇してる。
ヤバイ、顔熱い。
あぁもうホントなんなんだー!
「はぁ?青菜に触れていいのがお前だけなわけねーだろ!」
「それを言うんなら、青菜はお前のでもない。」
・・・・・・なんかいきなり口げんか始めちゃったよ総長様達。
私一体どうすれば・・・
―――――バンッ!!!!!!
突然。
私の部屋のドアが勢いよく開かれた。
何事!?
パッと視線を向ければそこには――
「は、葉月・・・?」
涙でぐしょぐしょの顔をした葉月が立っていた。
「あ・・・おなぁっ・・・・・・」
ぽろぽろ涙を流す葉月。
スッと陽が私の身体を離し、私はすっくと立ち上がる。
「葉月、おいで。」
ふわりと微笑んで、葉月に近づき、腕を広げる。
葉月が、私の胸に飛び込む。
「あおなっあおなっあおなっ・・・」
「うん。」
そっと、葉月の頭を撫でる。
銀髪のウィッグの髪が、さらさら流れた。
「どうしようっ・・・青菜・・・・・・」
「うん?」
「私・・・・・・日岡さんの、その・・・彼女に、なっちゃった・・・」
・・・・・・!!!!!
「う、うわああああ!よかったね葉月!よかったねぇ!」
思わず笑えば、葉月も涙でぐしょぐしょの顔で笑った。
「うん・・・。今、なんかすごいふわふわしてるっ!」
そう言って笑う葉月は、本当に可愛くて。
なんだかとても、眩しく感じられた。
というか本当何この可愛い生き物。
ふにゃぁーって感じに力の抜けた葉月らしからぬ微笑。
・・・・・・ヤバイ。
「イケナイ思いがむくむくと「丁重にお断り申し上げます。」」
・・・ぐすん。
「葉月ちゃんがそんな冷たいだなんて思ってなかったな!」
「青菜ふざけないで。私そこの総長2人に殺されかねないから。」
そこの総長2人って・・・陽と翼?
「えぇっ!?まさか2人も葉月のこと好き「「じゃないから!」」」
息ピッタリ。
時々思うんだけど、この2人って案外馬が合うんじゃないの?
「えー。じゃあなんで葉月が殺されるとか言うの?
可愛さ余って憎さ100倍的なのじゃないの?」
「・・・・・・鈍感ってもの凄く残酷だと思うんだ私。」
「どういうこと?」
「別に。」
「何ソレ気になるー!」
「うるさい黙れ手裏剣投げるぞ馬鹿。」
「・・・すみませんでした。」
葉月の目がマジだったので謝りました。
うぅー・・・教えてくれたっていいじゃんかー!
「というかさ。なんでここに総長2人がいるわけ?」
葉月さんはさらりと話題を変えました。
いやもう、なんて華麗で自然な口調なんでしょう。ワタクシ尊敬いたしますわ・・・じゃなくて。
「なんか私に会いたいとか喋りたいとかだってさー。」
「・・・・・・それであんたはそれをどう受け取ったの?」
「え?暇つぶし。」
「・・・・・・・・・だそうだけど。マジで意識されてないね君たち。」
「いやもうそれは想定済みー♪」
「認めたくは無いが、予想はついていた。」
「意識って何?」
「「「鈍感は黙って」」」
「鈍感じゃないんですけど!」
何さ皆して!
そんなに私をイジメたいのかコノヤロー!
「つーか葉月!さっきまでのうるうるお目目の可愛い姿はどこいったの!?」
「あぁ、涙ひっこんで冷静になったから。さっきはごめんね。」
「・・・・・・切り替えが早すぎると思うんです私。」
「普通よ普通。」
えぇー?
可愛くないー。
ぶぅーと唇を尖らせたところで――
―――バンッ!!!!!!
「うあああああん葉月ぃぃぃぃぃ!!!」
なんていう叫び声と共に、なぜか緋月ちゃんが私の部屋に入ってきた。
そしてその勢いのまま、突風のごとく私の隣の葉月に抱きつく。
・・・・・・何事?
あまりのことに総長2人と目を合わせてしまった。
「・・・なんで小野家の一人娘がここに来てんの?」
数秒の沈黙を破ったのは、翼の困惑の声。
あぁやっぱお金持ち同士、顔ぐらいは知ってるのか。
―――にしても。
一人娘・・・ねぇ?
「気に入らないね、本当。」
すぅっと目を細めて呟いた。
本当、気に入らない。
双子だっていうのに、周りは知らないなんて。
そこまで隠す?
そこまで――いらないってか?
「・・・青菜?」
翼が怪訝そうに私を見る。
まぁ、知らない奴には教えればいいか。
「小野家の娘は2人だよ。」
「えっ・・・?」
突然のことに目を瞬かせる翼と、陽。
ったく。
土井家と藤原家の御曹司ともあろう2人が知らないとか、本当腹たつ。
「葉月と緋月ちゃんは双子なんだよ。」
だけど私はにっこり笑って言ってやった。
だって、知らないけど、こいつらに罪はないし。
知らないんなら知ればいいだけだしね。
「・・・ふたご?」
「葉月と・・・そこの、小野家の奴がか?」
目を見開いた2人に、私は大きく頷く。
そう。双子なんだよ。葉月と緋月ちゃん。
「うん。ほら、顔そっくりでしょ?」
私の言葉に、うんうんと頷く2人。
「けど、じゃあなんで俺らが知らなかったんだ?」
「陽、そんなの愚問。小野家が存在を消したからに決まってるじゃん。」
「なぜ?」
「いらないから。」
「「は?」」
陽と翼の声が重なる。
私が口を開く前に、葉月が口を開いた。
「小野家の跡取りは1人で充分。他はいらない。
そして私は跡取りの試験みたいなので落とされたのよ。
だから、小野家の人間じゃないってことになってる。
だから、存在自体を消した。もう小野家の人間ではないと判断して。
ただ、それだけのことよ。」
葉月は淡々と説明しつつ、緋月ちゃんの頭を優しく撫でる。
陽と翼は納得したように、頷いた。
「なるほどな。小野家のやりそうなことだ。」
「まー小野家はちょっとどころじゃなく黒いからなぁ~」
「黒いのは、おたくらもでしょ。」
「ああ。」
「まーな!」
否定しないのが、こいつららしい。
全員が全員、今の体制の下で虐げられ、足掻いて、前を向こうとしてる。
―――あぁ、なんか、いいな。
やられてそのまま泣き寝入り、じゃない。
自分の意思で、未来を決めようとしてる・・・。
黒いところは黒いって認めて。
その上でさらりとかわして、笑って。
強い、なぁ。
羨ましいほど、強い。
「葉月のことは分かったが、小野家の娘はなぜここに?」
陽の言葉に、ハッとした。
そうだ緋月ちゃんだ!羨んでる場合じゃない!
こんなに取り乱してるなんて・・・きっと一大事だ。
「緋月、落ち着いた?」
葉月が、緋月ちゃんの顔を優しく覗きこむ。
緋月ちゃんは、さっきの私達の会話の間に落ち着いたらしく、もう涙はなかった。
コクリと一つ頷き、緋月ちゃんは口を開く。