「あのさ、青菜・・・その"好き"は、どういう好き?」
ちらっと視線だけこちらに向けながら、翼が聞く。
かすかに見えた顔の肌が赤かったような気がしたんだけど・・・気のせい?
「どういう"好き"とは?」
「そんなん、恋愛の好きか友情の好きかに、決まってるでしょ。」
首を傾げた私に答えたのは、翼でも陽でもなく、ニヤニヤ笑いをしている佐奈だった。
恋愛の好きか友情の好き?
って、恋愛!?
「友情の方に決まってるじゃん!!!
恋愛だったら、私、二股じゃんか!しかも、同時告白!
ありえないって!!!」
声を張り上げれば、佐奈はさらりと答えた。
「ありえない?案外、ありえるかもよ。
でも、残念ね。同時告白なんて、面白そうなのに。」
「面白がるなよ!!!」
佐奈の言葉にツッコみつつ、2人が息を吐き出したのに、首を傾げた。
なんで、陽と翼、脱力してんの?
・・・・・・?
なんかあったっけ?
ハテナマークを浮かべ続ける私を見て、佐奈はやれやれ、というように肩をすくめた。
「ハァ・・・友情か。まぁ、そうだよな・・・」
陽が呟いた。
友情か・・・って、私の"好き"のこと?
あ、もしかしなくとも、恋愛の"好き"だって勘違いしたから、2人共顔を背けたのかも。
そう考えると、とりあえず一安心できた。
仲間になりたくないほど、嫌われてるってワケじゃないからね。
でも、なんか、ちょっと胸が痛いのは・・・なんでかな?
「大丈夫だよー!私、陽と翼に恋愛感情持ったことないから!
安心して~」
なぜだか痛む胸を無視して明るく言えば、なぜだか2人に睨まれた。
なんで!?
目を丸くしていれば、陽が右耳に、翼が左耳に唇を寄せてきた。
「これから、攻めるから。
絶対、俺のこと、見ろよ?」
陽が、色気のある声で囁いた。
「ドキドキ、させてやるよ。
俺の可愛いお姫様♪」
翼が、甘い声で囁いた。
「・・・・・・ッ!?/////」
私は、当然のごとく顔を真っ赤にさせた。
顔が真っ赤な私を見て、2人は満足げに・・・妖艶に微笑み。
甘く色っぽい声を、ハモらせて言った。
耳元で、囁くように。
「「コレ・・・宣戦布告な。
手加減しねーから・・・覚悟しとけよ?」」
・・・・・・どうやら。
私が安心して学校生活を送れる日は、当分来ないっぽい。
そしてだね。
なんで宣戦布告されちゃったの私!!!
何かしたっけ!?
――本気で悩んだのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――・・・・・・
「・・・・・・死ぬ。」
AM11:00私はパタリと病室のベッドに果てた。
なぜか?
それはついさっき、杞憂さんがとんでもないことを言ったから。
『明日中間テストだから、頑張ってね♪
50位以内に入らないと、お仕置きしちゃうから♪
ちなみに、学年全員で250人ぐらいいるから♪』
・・・・・・死ぬってマジで。
昨日、朝霧家が無事解散し、ここに運ばれてきた私は、今日の午後には退院する。
この回復力は人間ではないらしい。
今度じっくり調査を・・・と、舌なめずりしそうな医者の股間にとりあえず蹴りを入れておいた。
ふぅ。
危ない危ない・・・とか思ってたら、またもやピンチだよ私!!!
あぁあぁぁあ・・・・・・。
杞憂さんは楽しそ~に、私に黒い笑みを向けて帰ってしまったんだけども。
・・・・・・お仕置き、とは一体どんなものなのだろうね?
私はすでに諦めかけている。だって、明日だよ!?
今日の午後退院で、一体何をしろっていうのさ!
このお馬鹿な頭で一体何をしろと!?
授業中=睡眠時間or毒牙出入りだった私に、何をしろってんだぁ!!!
なんかもう・・・支離滅裂だぁ・・・・・・と、枕に突っ伏していたところ。
ガチャッ
ノックも無しにドアが開いて、葉月が入ってきた。
・・・・・・葉月は確か、7日間、起きれないって言われてた気がするんだよね。
・・・ん?じゃ、なんでいんの?
・・・・・・・・・・ま、まま、まさか・・・
「幻覚!?」
「失礼ね、青菜。そーんなに頬をつねってほしいの?」
言うが早いか、葉月はスッと私の傍らにつき、ぎゅぅーっと私の頬をつねった。
「いひゃい、いひゃい!」
葉月、力入れすぎ!!!
涙目になった私を一睨みし、葉月はパッと私の頬を離した。
「うぅ・・・」
まだ頬がじんじんするよぉ・・・。
「幻覚じゃなくて現実だってこと、よーく分かったでしょ?」
葉月は実に楽しそうに、ふふふふふ・・・と、笑った。
「分かりました、分かりました。私が悪うございました。」
私は、両手を顔の前で合わせた。
葉月ってちょっとSだよね・・・なんて、考えたりもした。
「ま、分かればいいわよ。」
「ありがたき幸せ。」
ほっと一安心したところで
・・・あれ?そういや、私今何時代の言い回ししてんだろ?と、疑問がわいてきた。
けど、まぁ、どーでもいいので消去。
それより今は。
「なんでいるの!?」
「いちゃ悪い?」
「悪いっていうか、葉月、あと7日は起きれないんじゃ・・・」
「あ?それ、ガセよ。」
「ガセ!?なんで!?」
「・・・・・・過保護なのよ。」
ポツリと葉月は言い、つと顔を曇らせた。
「日岡さん、7日間は絶対起きちゃ駄目だ、安静にしてろ・・・って、私に命じたの。
主治医にも、念を押してたみたい。」
・・・・・・・・・・・・んーっと、つまり。
「日岡さんが、葉月が心配で脅しまくってたってコト?」
「・・・脅しては無いわよ。」
葉月、少し間が開いてたぞ。
私は呆れつつも、成程と頷いてもいた。
葉月は見た目華奢だし、弱弱しそうだけど・・・実は案外、タフ。
そんなことは、さすがにもう分かっている。
だから、7日間起きる事もできないって聞いて、内心かなり不安だったんだよね・・・。
でも、そういうことなら納得。
日岡さんはかなりあからさまに葉月が好きみたいだしね。
―――でも。
「葉月、今普通に起きてるじゃん。
日岡さんから命じられてたのに、いいの?」
私がベッドの傍らに立つ葉月を見上げて聞けば、葉月はスススと視線を下げた。
「・・・・・・・・・駄目、だけど・・・・・・例外・・・。」
あぁ、なんて小さな声。
従順な葉月だもん。
命じられた事を破るのは心もとないのだろう。
でも、なんで例外?
私の病室に来ることが、なんで例外?
記憶を少し探ればすぐに、あぁ、と、納得できた。
「葉月、私と友達になってくれるんだったよね?」
頬が緩むのを抑えられずに聞けば、葉月はほんのり頬を染めて頷いた。
「・・・うん。そうよ。友達に・・・なってあげるわ。」
ぽつぽつと呟くように言う葉月。
可愛いっ!!!
「わぁい!やったぁ!葉月、ありがとー♪」
嬉しくなった私は、さっと葉月の両手を取り、ぶんぶん上下に振り回した。
葉月はなんと、嫌がらずに、逆にはにかんだ。
可愛すぎるー!!!
私は心の中で叫び、葉月に笑いかけた。
「へへっ♪なんか、ウキウキするね!」
葉月は私を見て、1つ素直にコクンと頷いてくれた後・・・するりと、はにかみを消した。
真っ直ぐに、真剣な顔で私を見つめ始めた葉月。
きりりと、空気が張り詰める。
私は、葉月の両手を、きゅっと握り締めた。
―――分かってるよ、葉月。
友達になってくれると同時に・・・教えてくれるんでしょう?
葉月と、緋月ちゃんのこと。
「話がある。」
葉月は、一言そう言うと、私のベッドに腰掛けた。
私は、ベッドから起き上がっているから、葉月の後頭部が見える。
「青菜は、聞きたいんでしょう?」
最初に葉月に会った時と同じように、葉月の長い黒髪は、耳の後ろで1つのおだんごにされていた。
私は、そのおだんごを見つめながら頷く。
「うん、そうだよ。聞きたいの。」
私の言葉を聞いた葉月は、次の問いを口に出した。
「馬鹿みたいな話でも?」
淡々とした口調。でも、葉月・・・・・・声、少し、ほんの少し、かすれてない?
「馬鹿みたいな話でも、だよ。」
キッパリと言い切った私に、葉月はため息をついた。
「じゃ、しょうがないわね。」
あっさりと承諾し、葉月は私に顔を見せずに、淡々と話し始めた。
「青菜。私と、緋月はね・・・・・・すごく、仲良しだったの―――。」
「何にも知らずに、一緒に遊んだ。
迷いなく、笑顔で。
・・・ずっと一緒にいるんだって、信じて疑わなかった。
それが、どんなに残酷なことであるかなんて、気付かずに。」
葉月は淡々と言う。
どうってことないっていうように。
「・・・残酷?」
胸がざわめき始めた私に、やっぱり顔を見せずに、淡々と葉月は答える。
「そう、残酷。
一緒にいるなんてこと、本当はありえなかったのよ。
私達は、仲良くするんじゃなくて、喧嘩し合ってたほうが、まだマシだったの。
"好き"ではなく"嫌い"の方が良かった。
できれば、恨めればベストだったんだろうけど。」
淡々と葉月は話す。
何の感情も読み取れない。
葉月、葉月・・・今、何を思ってるの?
何を、思い出してる?
無性に聞きたくなったそれらのことを、ぐっと喉の奥に押し込める。
「まぁ、現実はそんなに上手くいかないのよね。
悲しいことに、私も緋月のお互いのことが大好きだった。
勿論、喧嘩だってしたけれど、すぐに仲直りした。
私は緋月が大切だったし、たぶん緋月も私のことを大切だって思ってくれていたんだと思う。
でも。
そんな私達の思いとか気持ちとかは、何の力ももたない。
重荷となるだけ。」