「何度も言うが、分かんねぇんだよ、本当に。
けど・・・けど。
暗殺なんかしたくない。
人を殺したくはない。
それだけは、断言できるみたいだ・・・。」
ゆっくりと紡がれた言葉は、彼の本心だって、思う。
おそるおそる、というように、あちらこちらから小さな呟きが聞こえた。
「私、も・・・人を殺したくは無い。」
「暗殺はしたくない。」
「殺すことは、辛い、けど・・・もう、私達は殺しすぎて・・・
もう、元の生活に戻れない気がする・・・・・・。」
「俺も、殺したくないけど、罪の意識が・・・」
「私も・・・」
「俺も・・・」
―――――うん、そうだよ、ね。
元の生活になんか、戻れないよね。
罪の意識は、消えないよね。
元の生活になんか戻れるワケないし、罪の意識は消えては駄目だ。
でも、だからって、暗殺を続けていくわけにはいかないでしょ?
「そんなの、変わればいいのよ。」
澄んだ声が、広場のざわめきに紛れずに響いた。
お母さんの声、だ。
「不安なのも、罪の意識があるっていうのも分かる。
けど、このまま人を殺していくわけにはいかないじゃない。
不安を、乗り越えなきゃいけないのよ、私達は。
罪の意識を抱えたまま、前を向かなきゃ駄目なのよ、私達は。
変わらなきゃ、いけないの。
このままじゃいけないの。
分かるでしょう?」
凛とした声。
ストレートに胸の中に飛び込んでくる言葉達。
そう、そうだよ・・・変わらなきゃ。
全員が。
「海の言う通り。
あたしらはもう、暗殺なんかやめなきゃならんし、変わらねばならん。
じゃが、おぬしらはできるだろう?
いや、できるはずじゃ。
そうじゃろう?」
しわがれた、けれど強い声。
お祖母ちゃんの声、だ。
有無を言わせぬ響き。
どこか、試すように感じられる。
そんな声に導かれるように、部下の人達が綺麗に声をそろえて答えた。
『はいっ!!!』
決意に満ちた声を聞いた私は・・・この上なく安心して――
「「青菜っ!?」」
―――意識を、手放した。
―――――――――――――――――――――――――――――・・・・・・
ずんちゃっちゃっ♪ずんちゃっちゃっ♪
軽やかな3分の4拍子のワルツが流れる。
明るい明るい、楽しげなメロディー。
ずんちゃっちゃっ♪ずんちゃっちゃっ♪
私は、どこか白い空間の中にいた。
ずんちゃっちゃっ♪ずんちゃっちゃっ♪
目の前には、巨大な、ホールのショートケーキ。
ずんちゃっちゃっ♪ずんちゃっちゃっ♪
・・・・・・つばが口の中に溢れた。
ついでに、腹の虫が泣き始めた。
ずんちゃっちゃっ♪ずんちゃっちゃっ♪
そういえば私、最近、全然食べてなかった。
ずんちゃっちゃっ♪ずんちゃっちゃっ♪
そう思ったが早いか、私はショートケーキに飛びついた。
ずんちゃっちゃっ♪ずんちゃっちゃっ♪
いっただきまーす♪
ショートケーキにかぶりつこうとしたまさにその瞬間――
「「「「「「「青菜っ!!!!!!」」」」」」」
複数の人の叫び声が耳に入り、私は強制的に目を開けることとなった。
反射的に目を開ければ、そこには―――
お祖母ちゃん、陽、翼、お母さん、佐奈、ナァちゃん、糞親父の顔があった。
「・・・・・・ショートケーキは?」
あれ?なんでいきなり私の眼前が顔になってんの?
ショートケーキは一体どこに!?
焦り始めた時、佐奈のほっとしたような、けれど呆れた声が降ってきた。
「青菜、寝ぼけてんじゃないわよ。」
「・・・・・・寝ぼけ・・・?」
首を傾げた私は、自分が白いベッドの上に横になっていることを認識した。
・・・・・・・・・・・・あれ?
なんで私、こんなとこにいんの?
ここ、どこ?
そんで、なんで皆が・・・?
そんな私の疑問を見透かしたかのように、お祖母ちゃんが説明し始めた。
「部下が承知した後、青菜は意識を失ったんだよ。
それで、急遽この病院に救急車で運ばれたのよ。
医者によると、主な原因は大量出血なようじゃ。
ついでに言うと、栄養失調と睡眠不足も原因らしいの。
まぁ、とにかく。
そういうワケで、青菜はここのベッドで眠っていたワケじゃ。」
なーるほど。
ココは病院なのね。
あれ?でも、じゃあなんで、佐奈とナァちゃんと糞親父が?
なんでいたのかは分からないけれど、陽と翼とお母さんは、あの場にいたけど・・・。
佐奈が実にクールに話してくれた。
「黒狼は、青菜を助けるために前々から動いてたらしいわよ。
そんで今日、参上したってわけ。
私とナァちゃんも、手を貸した・・・っていうより。
ナァちゃんは自分が暗殺のターゲットだって知って、私と青菜の糞親父とで守ってたのよ。」
・・・・・・・・・・・・え?・・・
「わ、私を助けるため?な、なんでっ・・・」
なんで最強の暴走族が、私なんかのために?
怪訝そうに眉をひそめた私を見て、佐奈がため息をついた。
「なーんにも知らないワケ?」
「うん。黒狼についてはなーんにも。だって、実際それどころじゃなかったし。」
「あー・・・うん、まぁ、そうだろうけどさぁ・・・・・・」
佐奈は、なぜか陽と翼に哀れみの視線を投げかけた。
「えーっと・・・ガンバ。」
「あぁ。」
「おぅ!」
陽が頷き、翼が明るく言った。
・・・・・・何を頑張るんだろう?
一瞬そんな疑問が脳裏をよぎった。
でも。ま、私には関係ないか☆と、あっさり受け流した。
「で?なんで私なんかを?
というか、糞親父とお母さんは一体どこでどう繋がってるの?」
私の問いに、佐奈が大きく目を見開く。
「青菜、あんた・・・
あんたの糞親父が黒狼の総長で、あんたのお母さんが"青き女神"だってこと、知らないの?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?
私の糞親父が、黒狼の総長?
私のお母さんが、青き女神?
・・・はああぁあぁあぁぁあ!!!??
「ちょっ・・・佐奈!何ソレ何ソレ!!!」
「青菜!やっぱ知らなかったの!?」
「知るかよ!!!」
本当になんだよその情報!!!
娘の私が知らないってどういうことだぁあああ!!!!!!
と、憤慨したところで、ん?と思った。
『敦はその後、2つの暴走族を"黒狼"という暴走族に入れてしまった。』
『喧嘩が強かった海は青き女神と呼ばれるまでになり・・・』
・・・・・・なんか、お祖父ちゃんが過去を語った時に、言ってたような?
あれ?言ってたな、うん。
・・・あぁ、私、あの時新情報が入りまくって混乱してたから・・・
スルーしちゃってたんだ!!!
って、えぇ!?
じゃ、じゃあ、もしかしなくとも――
私は陽と翼に視線を移した。
「2人って・・・糞親父に命令させられたりしたの?」
あの糞親父が、この2人に命令なんて・・・まさか・・・そんなこと・・・
「命令?勿論されたぞ。」
陽がさらっと言い、
「そうそう。だって俺ら、部下だったワケだし。」
翼もさらっと言いました♪
って、マジかよ!!!
「お、お前っ・・・人に命令できるような男かよっ!!!!!」
糞親父にキックをお見舞いしようとしたんだけど、力が入らず、私はベッドの上に倒れた。
「・・・・・・なんでだ・・・」
「あはは!青菜様は、さっきまで意識不明の重体だったんだから、安静にしてないと~」
「・・・ナァちゃん、笑うでない。恥ずかしいでしょうが。」
「あはは!ごめんね~」
だから笑うなって!!!
というツッコミは、とりあえずこらえて。
ナァちゃんを見上げた。
「・・・・・・無事?」
ナァちゃんは一瞬キョトンとした顔をした後、ぷっと吹き出した。
「ふはっ!さっすが青菜様。
重体だっていうのに、あたしの心配ですか。」