私は最強ビンボー女!

つっても、健一さんもヒドイよなぁ。


おもいっきし例外の私が、ここにいるのにさ。




まぁ、私は"仕事"だからね・・・。





「・・・・・・じゃあ、探してくれますか?」

ポツリと呟いた緋月ちゃん。



さっきまでとは打って変わって、ギッと健一さんを睨みつける。




「夜中、歩いちゃいけないんなら、代わりに探してくださいよ!

"ハヅキ"をっ・・・・・・!!!」







・・・・・・・・・・・・・え・・・。



ハヅキ?


って、葉月?



えぇっ!?




あまりのことに、目を見開いたけど、すぐに思いなおした。


私の知ってる葉月のことかは、解んないじゃん。

というか、たぶん、違うでしょ・・・。


世界はそんなに狭くはない・・・はず。



そう納得させてると、健一さんは、ボソッと言った。





「それは、できねぇ。」


「どうしてですか?」


「どんな奴かわからん。」


「・・・・・・私の、双子の姉なんです。

一卵性だから、私にそっくりなはずですよ?」





・・・・・・・・・・・・は。



「はあああああああ!!??」




私の突然の叫び声に、2人がビクッとして私を見た。






え、ちょ、ま、待って!!!



私の知ってる葉月、緋月ちゃんとそっくりだよぉ!?




えぇぇ・・・世界、狭くない!?



呆然としていれば。







「・・・・・・できねぇよ。」


言い訳のように、健一さんが声を絞り出した。



私は思わず首を傾げる。


できない?




「お前の双子の姉を探す事は、できない。

お前、それ、知ってんだろ?」



苦々しげに言う健一さん。


緋月ちゃんはその言葉に、さらに健一さんを強く睨む。


「知ってますよ。どうせ、小野家がなんか言ったんでしょう?」


「ハハ・・・やっぱ知ってんじゃねぇか。」


弱弱しく笑った健一さん。

緋月ちゃんは吐き捨てるように言った。



「警察が役に立たないから・・・

私がこうやって、ふらふらしてるんじゃないですかっ!!!」



健一さんは、哀れむような視線を向けた。


「緋月ちゃん、そもそもが間違ってんだよ。

もう終わったんだよ。"あのこと"は。
過ぎた事、なんだ。

葉月を探そうなんて思うのが間違いだ。」



その言葉に、緋月ちゃんの瞳から、涙が溢れ出た。



「そんなっ・・・過ぎた事でも・・・私、はっ!!!

わたし、は・・・・・・―――――」




――ドサッ



何かを言いかけ、突然緋月ちゃんは倒れた。

涙を、流しながら。



ポツリと、雨の最初の一滴が、倒れた緋月ちゃんの頬に、落ちた。










――午前2時ちょうど。


パトカーに緋月ちゃんと激弱のオニーサンを乗せて、警察署についた。


もちろん、私も同乗した。


健一さんは帰れって言ったけど、私は頷かなかったんだ。



かなりの押し問答の末、結局健一さんが折れた。





・・・・・・ねぇ、誰が帰るのさ。


私は葉月を知ってるのに。






健一さんはオニーサン達をどこか別室に押し込んだ。


私は突然倒れた緋月ちゃんを、奥にあった黒いソファーに寝かせた。



健一さんは戻ってくると、私に茶封筒を差し出した。


「ボーナスと、感謝料。

ありがとな、緋月ちゃん運んでくれて。」




中には、10万円が入っていた。



ボーナスと・・・感謝料。


素直にありがたいと思えたから、健一さんに両手を合わせた。



「健一さん、感謝。」






健一さんは、笑った。


「ハハッ。律儀だなぁ。

ほら、さっさと帰れ。徹夜はキツイだろ?」


「・・・・・・キツくないよ。というか、慣れた。」


ポツリと呟いた。

朝霧家に毎日行ってたから、もう、慣れたんだ。



ちなみに、今日・・・というか昨日?は、特別に無しにしてもらったんだ。


日岡さんが黒い笑みを浮かべたけど、気にしないフリできた私は、凄いと思う。




健一さんは私を見て、珍しく真面目な顔で聞いてきた。


「狩人・・・お前、なんかあったのか?」



"狩人"か。


「何もない。狩人は、何もなかったぞ。」


さらっと言えば、健一さんは間違えに気付いたらしく、言い換えた。




「狩人、じゃない。青菜だよ。青菜は、なんかあったのか?」


なんか?


あったよ。ありまくり。



もう、頭の中ショート寸前。



――でもね?


言えないから。

というか、言うつもりもない。





だって、関わらせてはいけないって、ちゃんと分かってるから。



「なんもないよ?ただちょっと、勉強ヤバイなーって思って頑張ってるだけ。」


嘘と、本当が混じった言葉。


なんもないわけじゃない。

勉強はヤバイ。

頑張ってる・・・けど、それは、勉強のことじゃない。


でも、女子高生としては、いいんじゃないかな?

恋愛っていう選択肢もあったけど、それじゃあ、全部嘘になっちゃうもん。


だって私、恋なんてしてないし。





「勉強かー。やっぱ、授業中の居眠りがたたってんじゃねぇの?」


「・・・・・・ごもっとも。」


「おいおい。じゃあ、早く帰らねぇと。」


「・・・帰らない。」


「は?」



健一さんが鋭い視線を私に向ける。


私は怯むことなく、その視線を冷静に受け止めた。

"鋭い視線"は"ニセモノの笑顔"より、断然、気持ちがいい。



健一さんはため息をついて言った。


「あのなぁ・・・

一応言っとくが、緋月ちゃんのことは、お前には無関係なんだからな?」


私は、その言葉に、薄い笑みを浮かべた。

普通、そうだよねって思いながら。




でも、私は普通じゃないみたいなんだ。



「健一さん、無関係じゃないんですよ。」

静かにそう言えば、健一さんの視線が更に鋭くなる。


「無関係だろ。ただ、からまれてるのを見つけただけだ。」


「違うんですよね。これが。」


「はぁ?」



イライラと言う健一さんを、真っ直ぐに見つめて言った。





「私、緋月ちゃんそっくりの、葉月っていう名前の女の子、知ってます。」



「・・・・・・・・は・・・・・・はあああああああ!!???」





うわっ!

健一さん、声大きいよー!


思わず耳を塞げば、健一さんに肩をガシッとつかまれた。

そして、ゆっさゆっさと肩が揺らされる。



「お前、それっ、本当なのかよ!?」


「ほ、ほんと、です、よっ。

こ、ここ、こんな、の、嘘、つ、いて、どうす、ん、でぇ、すっかぁっ!」


肩が揺らされてるから、もう、どもりっぱなし。



「そんなどもってるんだ。嘘だろ!!!」



・・・・・・ブチッ

何かが切れる音がした。




「テメェが揺さぶってるからだろうが!!!

いい大人が、動揺してんじゃねぇっ!落ち着きやがれっ!!!」


ドカッ!!!!!!



最後に、健一さんの脛(スネ)を蹴っ飛ばしてやった。


「う゛っ・・・・・・」


しゃがんで呻き始めた健一さんを、仁王立ちで見下ろす。


「・・・・・・驚くのは分かります。

ショックを受けるのも。


でも、落ち着いてください。じゃないと、何も考えられない。」


静かに言えば、健一さんはコクコク頷いた。


「・・・・・・わりぃ。」

ボソッと呟かれた言葉に、うむと頷き、私は緋月ちゃんの方を見た。



「緋月ちゃん、起きちゃったんでしょ?

こっち、来れるならおいで。」


緋月ちゃんが黒いソファーから降りて、おずおずと顔を出した。



「あの、すみません。私、迷惑かけましたよね・・・」


しゅんっと俯く緋月ちゃんは、やっぱり可愛いと思った。

守ってあげたくなるような感じ。


私は、優しく言った。


「いいんだ。そんなの。

それより・・・どこから聞いてた?」


なんとなく予想はつくものの、一応聞けば、案の定。



「あの、私、警察官の方の叫び声で起きたんですけど・・・」




「はは・・・やっぱり。」


健一さん、声大きいからなぁ。


ま、でも。

それじゃ、私が"葉月"を知ってるってとこは聞いてなかったってことか。


「健一さんは、落ち着きましたか?」


「あぁ。おかげさまでな。」


健一さんはそう言ってすっくと立った。

緋月ちゃんは、不思議そうに私達を見て。


「あの、何があったんですか?」

おずおずと聞いてきた。


「うーん・・・。打ち明け大会?」


「大会じゃねぇだろ。お前が打ち明けただけなんだから。」


「あー。そっかぁ。」


ハハハと笑った私を見て、緋月ちゃんはもしかしてというように、私を見た。





「あの・・・狩人さんって、女なんですか?」



・・・・・・・・・・・・あ。


やべ。

思いっきし普段の声と口調になってた。



健一さんを窺い見る。


「バラしても?」


「・・・・・・ハァ。しょうがねぇだろ。」


渋々健一さんが頷いたので、私はフードに手を掛けた。