「私、守られないけどね?」
「え?」
キョトンとした顔で首を傾げる下っ端くんに、笑いかけた。
「守る必要なんてないよ。
私は、最強青菜様。
おそらく、この族のなかでだって、最強だよ。
それに――」
私は、困惑している下っ端くんから、視線を天井に向けた。
「私は、1人で生きていくから。
本当は、仲間なんて、いらないんだ・・・――」
そう。
いらないの。
仲間も、温もりも。
だって私は、欲しくない―――。
そっと視線を下っ端くんに戻し、微笑みかけた。
「私は、1人で大丈夫だから。
守らなくて、いいからね?」
というか、守らないで。
その言葉は、ぐっと押しとどめた。
下っ端くんは、じっと私を見て、口を開いた。
「あの、なんで、1人で生きてくって思ってんのに、毒牙に入ったんですか?」
真剣な瞳の中に、かすかだけど、確かに、"警戒"あった。
私は微笑みながら言った。
「諸事情があってね。
ていうか、もっと、そうやって警戒してくんない?
じゃないと、危ないよ、君達。」
私の言葉に、目を見開く下っ端くん。
「気付いてたんですか?」
「まーね。」
「なんで・・・警戒なんですか?裏切る、とかですか?」
ギッと睨むように、私を見た下っ端くん。
その言葉には答えずに、私は言う。
「毒牙、大切なんだね?」
「当然です。」
キッパリと答える下っ端くんは、未だに私を睨むように見ている。
そんな彼を、真っ直ぐに見つめ返した。
「じゃあ・・・私じゃなくて、全力で、毒牙を守りな。
毒牙を・・・"本当のお姫様"を。
私なんかじゃなくて、もっと、守るべきものがあるんだから、
そっちを、全身全霊で守りなよ。」
静かな声で、でもハッキリとした口調で伝えた。
「大切なモノがハッキリしてんなら、
びしっと守れ!
余計な物抱え込む必要なんて、ないんだから。
危ないのは、私じゃないんだから。」
そう言い、私はスッとその場を去った。
驚きで目を丸くしている下っ端くんを残して。
だって、このままいたら、言っちゃいそうだったから。
"ナァちゃんは、標的になってるよ。
あんたは、ナァちゃんをよく見て、守れ。"って。
でも、そんなこと、言っちゃいけないから。
さっきから、葉月と日岡さんの視線が、痛いもん。
そんなこと言ったら、あの2人に何されるか。
考えただけでも恐ろしい。
でも――
よかった。
毒牙を大切だって、真っ直ぐにハッキリ言える人がいて。
きっと、私や葉月や日岡さんが裏切っても、
毒牙は、きっと大丈夫だ。
私は、温かいモノが心の中をじんわりと満たしたのを、感じた。
―――――――――――――――――――――――――――――・・・・・・
毒牙に入ってから、早一週間が過ぎた。
毒牙は、かなり馬鹿騒ぎが大好きな奴らで、
いつだってバカバカしいことで騒いでた。
おそらく、"暗殺"なんていうものと無関係だったなら、
私はもっと楽しめたはずだ。
でも、日岡さんは相変わらずのニセモノの笑顔で、
葉月は葉月でポーカーフェイスで、
2人してさりげなく情報収集していて。
しかもその様子がチラチラ視界に入る。
わざとなのか自然になってしまったのかは分からないけど、
かなりタチが悪い。
学校では、黒狼となった方々からの視線が痛い。
ついでに、葉月の視線も痛い。
かなりの疎外感を日々感じつつも、人は生活していくもので。
お腹は減るもので。
お風呂にも入るもので。
電気も使うわけで。
つまり。
私が言いたいことはただ1つ。
生活費がついに底をつきましたっ!!!!!
パンパカパーン!
というファンファーレが、頭の中で鳴り響いたと同時に。
きゅるるるぅ~
という哀しげな声を、私のお腹の虫は出した。
――まぁ、そんなわけで。
只今、久々の狩人の業務中!
黒いパーカー着て、フードかぶって、
夜の街を歩いてまーすっ。
今夜は曇っていて、月はおろか、空さえみえない。
もやもやした灰色の雲。
もうすぐ、雨が降るかもしれないな。
そんなことを思いながら、夜道を進む。
昼間でさえ人通りの少ない、小さな細い道を通り過ぎる時。
「や、やめてっ、くだ、さいっ・・・・・・」
途切れ途切れの、細い声が聞こえた。
私は反射的に、細い道に入っていく。
絶対、なんかある。
そう確信したから。
奥へ進み、突き当たりが見えた。
そこには、20歳ぐらいの若い男数人が、
1人の中学生ぐらいの女の子を取り囲んでいた。
・・・・・・・・・はぁ。
まったく、なんでこう、しょうもない奴らって、いつの日にもいるんだろう。
呆れつつ前へ進む。
そして、囲まれている女の子の顔がハッキリと見えるところまで来た。
私は、女の子の顔を見て――思わず、固まった。
は?
なんで?
いやいや、ありえないって。
なんで――
――――葉月!?
そう。
女の子の顔は、葉月そっくりだった。
小さな顔に、大きな黒い瞳。
長い睫に、薄桃色の形のいい唇。
だけど――
さらっさらの髪の毛は、肩より上ぐらいまでの長さだった。
葉月は、胸ぐらいまである長い黒髪。
・・・・・・・・切った、のかな?
いや、だとしてもおかしいんだ。
だって、あの葉月だよ?
平気で人殺した事あるとか言う奴だよ?
こんなしょうもない奴ら相手にビビる?
っつーか、葉月が朝霧家関係以外でビビるとか・・・
・・・・・・想像できない。
「ふはははは!声もかわいーなぁ。
じゃ、まずは俺からぁ~」
って、話が進んでおる!!!
いつの間に!!!
というか酔ってるねオニーサン!
私は助けなくちゃいけないではないか!
狩人だしね!
生活費ヤバイからね!
こういうのムカつくからね!
許せないからね!
私は、ダッと駆け出した。
そして―――
ドカッ!!!!!!
思いっきり、さっきのオニーサンの背中に
とび蹴りをくらわした。
「ってぇ~~~!!!!」
ドサッと崩れ落ちるオニーサン。
ざわっと周りの奴らが私を見た。
そして、一瞬にして顔を青くさせた。
「・・・・・・お、お前っ!!!」
あわあわと1人の男が口を開く。
私は静かに言った。
「・・・知っているらしいな、私のこと。
なら、分かるだろう?
お前らは"標的"だってことが。
逃がしはしない。
私は"狩人"だからな。」
そう言い放ち、私は奴らに向かって行った―――――・・・。