買うとしたら狩人の時だけど・・・・・正体はバレてないし。
そもそも、コイツら、私を橋野青として見て来た。
つまり、用があるのは男装している私なわけだけど・・・
男装中にこんな奴らに会った事なんてない。
葉月は何かを考えているらしく、ふっと俯いた。
そして、呟いた。
「だとしたら・・・・・
狙いは白狼か、紅狼・・・もしくは両方、か。」
なっ!?
「どういうこと!?」
「だからさ。青を囮にして、潰そうっていう魂胆なんじゃないの?」
「あー・・・・・」
その手かぁ・・・・・・
「でも、そんなに一緒にいる期間、長くないけど・・・」
「だとしても、総長2人が青に好意を持っている。作戦自体はいいと思うけど?」
まぁ、確かに2人は私に優しいよね。
でも――
「この作戦、失敗するのは決定かな。」
葉月の囁きに、私は不敵に笑った。
「当然。」
丁度いい―――。
コイツら、未成年なのに煙草吸ってるし、いかにも悪い事してそうじゃん。
狩ってやるよ。
狩人として。
恨むなら、私に目をつけた、自分達の愚かさを恨みなよ?
―――――けれど、結果として私は・・・・・・・
彼らを、狩ることはできなかった・・・―――――。
―――疑問があるとすれば、ただ1つ。
どうして・・・・・・
・・・葉月に知らされていなかったのか、ということだ―――――。
最近、囁かれる噂がある。
"黒狼"(コクロウ)が、再結集を求められている。
"青き女神"も、現れた。
彼らは、何かを企てている。
――黒狼も、青き女神も、16年前の伝説。
白狼と紅狼を従えたという、伝説の暴走族。
黒狼。
そして、黒狼の総長の女であり、史上最強の女と謳われた、美女。
青き女神。
16年前に消滅したそれらが――復活する。
そう、噂が流れた―――――・・・・・・・。
―陽side―
白狼の幹部以上と紅狼の幹部以上が、屋上で顔を突き合わせていた。
俺らは全員、複雑な表情。
なんで、こんな状態になってしまったかと言うと、それは昨夜のことが原因だ―――
―昨夜―
俺ら白狼の幹部以上は、初代総長・・・つまりは理事長である杞憂さんに、理事長室に来いと言われた。
「一体、なんでしょう?」
律が首を傾げる。
「・・・・・もしかしなくとも、俺の成績の悪さのせいか・・・・・?」
恐ろしそうに呟いたのは勇人だ。
まぁ、確かに勇人の成績の悪さはヒドイが・・・。
「そのことじゃ、ないだろ。」
俺は断言した。
杞憂さんの声は、真剣だった。
おそらく――青菜のことだろう。
「そうか!それならいいんだ・・・。」
あきらかにホッとした口調の勇人。
「だとしても、ゆーとは勉強しなきゃ駄目だよー?」
コテンと可愛らしく首を傾け、黒い笑顔で桃榎が言う。
まぁ、桃榎の言う通りなんだが・・・黒い笑顔はやめた方が良かったと思うぞ、桃榎。
勇人は、ぶるっと震えている。
まったくこいつらは―――と、思っていると。
「そうですねぇ。勇人、なんなら教えてあげましょうか?みっちりと・・・。
脳みそに・・・ついでに、体の方にも・・・・・・・」
追い討ちを掛けるように律もニッコリと黒い微笑を見せる。
勇人はあきらかに青くなっている。
律、お前もか・・・・・と、ため息をついた時。
「・・・・・・・・・・・・・嫌な予感がする。」
今まで黙っていた彼方が、眉間にしわを寄せ、呟いた。
嫌な予感?
「どういうことだ?彼方。」
「陽・・・・・・・・」
彼方が、俺を見て、顔を歪めた。
「俺、行きたくねぇ。」
「・・・・・・なんでだ?」
彼方がそんなことを言うなんて、前代未聞だ。
「だって、ぜってぇ、来てるだろうから。」
その口調で、誰が来てるかが分かった。
―――哉だ。
彼方は、哉が来ていると言っている。
彼方は、人一倍防衛力が強く、嫌いな奴(主に哉)などが近づいてたりすると、必ず察知する。
とすると、哉が来ているということは本当だと言えるだろう。
だが・・・・・・・
「なぜだ?」
俺の問いに、桃榎があっけらかんと答えた。
「このドア開けたら、分かるんじゃない?」
どうやら、いつの間にか理事長室の前まで来ていたらしい。
「そうですね。早くあけましょう。」
平然と言いのけた律。
彼方が顔を歪ませる。
そんな彼方を楽しげに律は見る。
・・・・・・・・・・さすがは腹黒。
やることが、さりげなくえげつない。
改めて思ったが、杞憂さんに言われたのだ。
行くしかないだろう。
俺は彼方を真正面から見た。
「彼方、悪い。我慢してくれ。」
「・・・・・・・・・くそっ!分かったよ・・・・・」
彼方は渋々了承した。
と同時に、勇人がドアを開ける。
「しっつれーしまーすっ」
ドアが開かれ、その場にいた人物達に、俺らは目を見開いた。
杞憂さんに、紅狼の幹部以上。
それに、りおさんもいる。
そして―――
整った顔立ちの、男と女。
女の方の瞳に、思わず視線が集中する。
なぜなら・・・・・・
女の瞳は、青菜と同じ、綺麗なコバルトブルーだったから。
「陽、来てくれてありがとう。助かるよ。」
そういい、杞憂さんは微笑んだ。
「いえ・・・・・それより、どうしてこの人達が?」
俺が質問している間に、律がそっとドアを閉めた。
杞憂さんは俺らを見据えて言った。
「それは、今から紅狼の奴らにも話すところだ。
だが、それは俺からじゃなく・・・敦からのほうがいいだろう。」
その言葉に、整った顔の男が頷いた。
その男は、怪我をしているらしく、腕や足に包帯が巻かれていた。
紅狼の幹部以上も、どういうことなのか分からないらしく、首を傾げたりしている。
敦という男は、口を開いた。
「俺から・・・・・頼みがあるんだ。」