これは、都心で囁かれる噂。
"狩人"という通り名を持つ奴が、悪事を働いている輩を捕まえる・・・つまり、"狩る"らしい。
狩人は、本名、年齢、性別、どれも知られていない謎の存在。
狩人は、黒いパーカーとジーンズ姿。
顔は、パーカーの黒いフードとマスクで隠されている。
狩人は、夜しか現れない。
・・・そして、狩人は最強。
それは、誰もが悟っている。
なぜなら・・・
どんなに強い族であっても、
どんなに多くの人がいようと、
翌日の朝には、警察に全員捕まっているからだ。
"狩人"という最強であり、謎の存在は・・・
いつも、噂されている・・・―――
―――5月の、初夏の月夜。
静まり返った路上に響く、人を殴る音。
ドゴッ!バコッ!ゴスッ!
そして、数秒後には、また辺りは静まり返った。
・・・まるで、何も無かったように・・・
「・・・もしもし。狩人です。片付けたので、来てください。」
私は健一さんに、電話をかけた。
ちなみに、健一さんは、警察官。
電話を掛け終えると、私は路上に腰をおろした。
――・・・私は、狩人だ。
さっきの殴る音は、私が悪人を片付けていた音。
でも、私が"狩人"として悪人を"狩る"のは、夜だけ。
なんで、こんな事をしているかというと・・・
・・・お金が欲しいから。
・・・なぜか?それは――
私の家が、超ビンボーだからっ!!!
・・・・・ろくでなし親父のせいで。
私の親父・倉本敦(クラモト アツシ)は、無職。
しかも、パチンコ・お酒・タバコ・女、が大好き。
そんな大馬鹿野郎のせいで、私は超ビンボー人。
そのため、こうして狩人となり、悪人を"狩る"。
そうして、警察からお金をもらうことになっている。
もらったお金は私の生活費となる。
でも、親父がよく盗み、使ってしまう時もけっこうある。
で、私は常にビンボー人。
ああ!!
本当に、仕事してくれ!親父!!
・・・私の切なる願いは、きっと親父に届くことはないだろうけど。
私がはあーっと長いため息をついていると、パトカーが止まった。
「いやー今夜もありがとうな!狩人!!」
出てきたのは、色黒でガッチリした感じの警察官。
・・・健一さんです♪
「はい、お礼はお金でお願いします。いくらですか?」
「・・・なんか、冷めてるよなー。狩人って。」
健一さんが苦笑している。
・・・私の事情、知ってるくせにっ!!
私はイラつきながらも、要求する。
「お・か・ね・は?」
「はいはい。ったく・・・ほら、3万。」
手渡されたのは茶封筒。
中にはキッチリ1万円札が3枚入っていた。
「・・・3万か・・・」
足りるか?
生活費・・・
「なんだー?不満か?」
「いえ、別に・・・」
たぶん、足りる・・・はず。
「ん。ならいいんだ。それじゃあな。さっさと帰れよー!」
そう言うと、健一さんは私が狩った奴等をパトカーに押し込み、帰って行った。
・・・・ふう。
さてと、私も帰るかー
私はてくてくと家へ向かって歩いた。
―――翌日。
朝っぱらから私、倉本青菜は怒っていた。
「はあー!?前のお金酒に使った!?」
なんたること!!!
「だって~お酒大好きなんだもん!許してー☆」
こんの糞親父っ!!!
「だれが許すかボケェー!!!」
私は親父を背負い投げした。
ドッシーン!
けっこう響いたな・・・
「うううっ・・・ヒッドイ、青菜ちゃん・・・」
誰がヒドイだっ!!!
「私、学校行くわ。じゃ。」
私はひらっと手を振り、さっさと家から出た。
・・・ああー・・・
生活費ーっ!!!
心の中で、嘆きながら。
「まぁまぁ。そりゃ災難なことで。」
「・・・佐奈、他人事だと思ってるでしょ。」
私は親友の林佐奈(ハヤシ サナ)を睨んだ。
「当然。だって別にあんたの家庭事情とかどーでもいいし。」
「・・・今日もキツイね、佐奈は・・・」
私は苦笑する。
「ん?ま、普通じゃない?・・・それよりさ、青菜。いーかげん気づけよ。」
「へ?何に?」
私が聞くと、佐奈がニヤニヤ笑いを始めた。
「何って・・・男子の視線に決まってんじゃん♪」
ああ、それ・・・
「佐奈、綺麗だもんねー。男子が見ちゃうのよくわかる。」
私がふんふん頷いてると、佐奈は大げさにため息をついた。
な、何よ!?
「あーあ。これだから青菜は・・・
自分もモテるってことに、いいかげん気づけ!!!」
・・・佐奈・・・
「嘘だってバレバレだよー?佐奈らしくないなぁ。」
私がケラケラ笑えば、佐奈はさらに大きいため息をついた。
「青菜ってさ・・・自分の見た目どう思ってるわけ?」
どうって・・・
「普通よりちょっと下?」
ぐらいかねぇ・・・
皆かわいいんだもんな~
平均が高くて困るっ!
「・・・・チャームポイントは?」
「え?そんなの、この瞳に決まってんじゃん。」
何を今更~
「ああ、そうだよね。本当、綺麗だもんね青菜の瞳・・・」
佐奈は私の瞳を見つめた。
私の瞳は、綺麗なコバルトブルーの色をしている。
カラコンじゃない。
私はハーフでもない。
この瞳の色は・・・
お母さんから遺伝したものだ。
お母さんも純粋な日本人なんだけど、なぜか瞳の色がコバルトブルーなんだ。
って言っても、私のお母さんは、私が物心ついた時には、いなかった。
どこにも。
どこかへ行ってしまったみたいなんだ。
詳しい事は知らない。
ろくでなし親父は、お母さんのことになると、口を閉ざしてしまうから。
まぁ、そんなに気にしてないからいいけど。