「わっ! もうっ、びっくりした! 起きてるんなら早く言ってよ!」
そう言って膨れている愛しの新妻。
もう……可愛いなぁ。
たまらず、俺はそっとキスをした。
驚いたように胸を押し返してきたけれど、その手をきゅっと握る。
朝にしては濃厚すぎるキスを交わした。
しばらく楽しんで唇を離すと、葵は真っ赤な顔ではふはふと息を乱していて。
それにまたずきゅんときた俺は、再び唇を重ねようと顔を近づけた。
「まっ、待って! 撮影、遅れちゃうっ、んぅっ…!」
なんだかうるさいことを言っている口を塞いだ。
俺って結構Sなのかもしれない。
葵と過ごしているとよく思う。
まぁ、嫌がってないしいいのかな。
じたばた暴れる葵を押さえながら、そう思った。
「んんっ……ちょっ、りょうってば!」
ことをさきに進めようとしている俺に気づき、葵が全力で止めてきた。
「なにする気!?」
「なにって……わざわざ口に出して言ってほしいの?」
葵はMだ。
最近、思うようになったこと。
すると葵は真っ赤な顔で怒鳴った。
「ち、違うっ! 仕事はどうすんのっ!!」
……あぁ、そんなこと。
だったら、
「遅刻したらどう――――」
「ないよ」
葵の言葉を遮って、俺は言い放った。
葵は意味が理解できなかったのか、ポカーンとしている。
………可愛い。
「………へ?」
「今日、休みになったの。昨日帰ってくるの遅くなって言いそびれちゃった」
そう言ってにっこり笑えば、葵はしばらく呆けていたが、みるみるうちに笑顔になった。
俺の大好きなひまわりのような笑顔が咲く。
それを見て俺の心は暖かく、しかしドキッと跳ね上がる。
幸せってこういうこと。
俺の幸せは、ただ1人の笑顔だけだ。
「そうだったんだ!
久しぶりの休みだね」
そう嬉しそうにへへっと笑うものだから、こっちはすっかりその気になってしまった。
葵の慌てるところが、見たかっただけなんだけど………。
ま、いいのかな。
「じゃあ、いいよね」
俺はそう言って休めていた手を動かし始めた。
「っ……ぁ……!」
油断していた彼女は、自分の出した声に真っ赤になっている。
慌てて自分の手で口を塞いだ。
相変わらず、慣れないなぁ。
そういうところが、可愛いんだけど。
俺は必死になって口を塞いでいる葵の手をどかして、触れるだけのキスをした。
「――――葵」
そっと窺うように顔をのぞく。
俺は、葵がいいと言うまでそういうことはしない。
彼女の悲しい涙は、もう見たくないから。
真っ赤になって俯いている彼女をじっと見つめた。
「………うぅ…。や、優しくしてね…」
「……了解」
ちゅっと額に小さくキスを落としながら囁いた。
もちろん、優しくするさ。
めいっぱい甘やかして、俺から離れられないようにしなくちゃ。
「……葵………」
「ぁっ……りょ、う」
ようやく俺の腕の中に戻ってきてくれた。
我が麗しの恋女房ですから。
【end】
はじめまして、こんにちは!
鳩゚(ぱと)です。
この作品を目にとめてくださり、ありがとうございます。
『日陰より愛を』は、私が初めて書いた小説です。
本当はもっと短編にする予定だったんですが、だらだらと長くなってしまいました……。
今回は少しシリアスな内容だったので、epilogueにはその後の甘い2人を書かせてもらいました!
ちなみに、最後の『恋女房』というのは、
“恋い慕って結婚し、深く愛している妻”
という意味なんです。
素敵な言葉ですよね。
私には芸能界の知り合いはいないので、完全なる妄想でお届けしました。
理解できない点もあるかと思いますが、楽しんでいただければ幸いです。
それでは、またお会いできることを祈って……。
2013.8.14
鳩゚