狼系不良彼氏とドキドキ恋愛【完】


「やっぱり星哉だ……」


ヘルメッドをとって頭を軽く振った星哉。


そんな一連の動きすらかっこよくて、胸がキュンっとする。


って、そんなこと考えてる場合じゃなかった。


店に手袋を忘れていないか、星哉に聞いてみよう。


星哉が店に入る前に呼び止めようと、足を踏み出した瞬間、


「……――星哉!!!」


その声と同時に、誰かが星哉に駆け寄った。

えっ……?


暗闇の中でもハッキリとわかる。


見知らぬ女の子が星哉に抱きついている。


「星哉、会いたかった……――」


そんな声が聞こえてきた途端、足がピタリとその場に止まって動かせなくなった。


動かそうとしても、それを体が拒む。



何だろう。この気持ち……。


感じたことのない感情に押しつぶされそうになる。

二人はどういう関係なんだろう。


何を話しているんだろう。


星哉は今……どんな顔をしているんだろう。


星哉にはあたし以外に付き合っている女の子がいるの?


それとも、付き合ってると思っているのはあたしだけ?


まさか、あたしが浮気相手?


やだ。やだ……。やだよ……――。


胸をえぐりとられるような鋭い痛みから逃げるように、あたしは二人に背中を向けて勢いよく走り出した。





「はい、お疲れ~。バイトの子たち、一度お昼休憩とってね」


時計の針が12時を回ったところで、作業服を着た正社員のおじさんがそう指示をだした。


その言葉を合図に一斉に工場内から出ていくアルバイト達。


あたしもその流れに乗るように工場から出た。



『ピッキングのバイト、あたしに紹介して!!』


愁太に頼みこんで2日間、短期のアルバイトをすることになったあたし。



「……――はぁぁぁ……。疲れたぁ……」


だけど、工場内での作業はほとんどが立ち仕事で思っていた以上に重労働だった。


大変だけど、星哉の笑顔を思い浮かべると頑張ろうという気になった。


愛のパワーはすごい!!


「よしっ!」


とりあえず、どこかでお昼ご飯の調達をしよう。


確か近くにコンビニがあったはず。


歩き出そうとした時、ポンッとふいに肩を叩かれた。

「……――?」


振り返ると、そこには見知らぬ男の子が立っていた。


180センチくらいある身長、細身の体。


茶色い髪を綺麗にセットして右耳にシルバーのピアスをしている。


顔立ちは大人っぽいけれど、きっと高校生。


もしかしたら、一つ年上かもしれない。


「昼、一緒に食べにいこうぜ」


「……はいっ!?」


「だから、昼。何も持ってきてないんだろ?」


「あっ、でも、あたしすぐそこのコンビニで買ってきて工場内の休憩所で食べるので……――」


「俺も持ってきてないんだって。そこのファミレスで飯食おう」


な。なんて強引な!!


初対面でこんなにもなれなれしくて強引な人見たことない!!


「……――ごめんなさい!!」


とりあえず、逃げるが勝ち!!


タイミングを見計らって駆け出そうとした瞬間、ガシッと腕を掴まれた。


「な、なにするんですか!!あんまりしつこいと大声あげますよ!!」


「お前さぁ……――」


「初対面のあなたにお前呼ばわりされたくありませんっ!!」


勇気を振り絞ってそう叫ぶと、男の子の顔がみるみるうちに険しくなっていく。

「俺とお前が、初対面?」


「そうです!!あたしはあなたみたいな人知らな……――」


あっ、あれ。


おかしいな。


こんな男の子、知らないはずなのにどうしてだろう。


何故か懐かしい感じがする。


昔から知っていたような……――。


「……――俺らって結婚の約束までした仲だろ?」


ちょっぴり嫌味ったらしくそう言い放った男の子。


その時、頭の中で過去の記憶が一気に蘇った。


それは、淡い淡い記憶。


「えっ……、もしかして……ヒロちゃん……?」


半信半疑で聞き返すと、彼は小さく頷いた。



「思い出すの遅すぎ。俺は一目見ただけで桃華だってわかったのに」


「えっ、嘘……。ヒロちゃんなの!?」


「あぁ」