深月は目を覚ました。
 
 
昨日の夜、布団も枕も何もない畳の上で寝たはずなのに、なぜか体にかかっていた毛布をどけて、深月は立ち上がった。
 
時計は10時15分をさしていた。
高校生にしては大寝坊だが、深月は全く焦らなかった。というよりそれが普通だった。
 
 
深月は食卓にあったスティックパンをくわえ、床の新聞を拾いあげバッと広げた。だが別に変わったことはない。
 
変わったことが何もないことを確認すると、深月は「行ってきます」と言って家を出た。
玄関のドアを閉める時に、奥の部屋から「行ってらっしゃい」という小さな声がいつも聞こえる。
 
10分ほどで、深月は学校についた。
深月は大体いつも2時間目ぐらいに来るので、誰も別にどうこう言わない。
今日深月が着いた時はちょうど休み時間だった。自分の席に座ると一人の男子が寄って来た。
「よっ、ミツ。相変わらず社長出勤だな」
 
彼はクラスメイトの谷瀬昇(たにせのぼる)。
昇はよく、数学が得意な深月に質問しに来た。それでだんだん仲良くなったのだ。
ちなみに、ミツとは深月のニックネームだ。
 
 
「…まぁね。後でノート見せてくれよ」
深月は、遅刻はするものの成績はそれほど悪くなかった。
また、留年だけはしないよう気をつけていた。少しでも祖母に楽をさせてやる為に。
 
「…それよりお前、知ってる?今日の学活の内容」
 
 
「いや。何すんの?」
深月は首を横にふった。
 
「なんか人権に関するゲームをやるってよ。真剣にダルいよな」
 
 
「ふーん…。そう」
 
この時深月は知る由もなかった。
この後に衝撃的な出会いがあることを。