深月の前には二つのチェス盤と、二人の人間があった。
深月の提案は、二人と同時に対戦して、少なくとも一人に勝てば深月の勝利、というものだ。
二人には、それの意味する所は到底掴めなかった。
 
 
「…じゃあ始めよ。右が後攻で左先行でいい?」
深月は、さらりとそう言った。
その言葉はさりげなく放たれたため、二人はその提案を軽く流がした。
というより、その言葉を重く考えることなど意識の中に全く無かった。
 
 
 
対戦が始まった途端、深月は下を向いた。
幼い少年にしては少し長めの髪が、深月の顔を隠した。
 
 
二人の内の左側が、ポーンを前にふたつ進めた。
それを見て深月は、それと全く同じ所に、自分が先攻の右側のチェス盤のポーンをゆっくりと動かした。
 
すると、右側の相手が、ポーンをひとつ前に進めた。
それを見て、またそれと同じように深い月は左側のポーンを全く同じ所へ進めた。
 それが2・3手続くと二人は、その奇妙さに気付いた。
二つの盤面が全く同じなのだ。
しかも、片方の先手、片方の後手は深月。
 
二人は少し考えた。
その二人を見て、深月はうっすら微笑んでいた。
 
 
「……まだ気付かないの?」
 
 
「……僕の勝ちだよ」