「…僕と勝負してよ。もし僕が二人のうち一人にでも勝つことができたら――」
 
 
「…僕の言うことを聞いて」
 
二人は、深月の提案が案外普通であったことに拍子抜けした。
だが深月の提案は、それで終わりではなかった。
 
 
「…ただこの後、僕用事あるから……二人同時ににやるっていうのはどう?」
 
 
深月が口にしたその言葉。
深月の実力をよく知る二人には、勝負になんら関係ない提案に聞こえた。
 
だが違った。
深月が口にした後者の言葉こそ深月の「答え」だった。
 
 
それを知らず、二人は見下すような口調でこう答えた。
 
「いいぜ何でも。その代わり、俺らが二人とも勝ったらこのチェスくれよ」
 
 
「……いいよ」
二人が言い終わるのとほぼ同時に、深月はそう言った。
 
深月はよっと立ち上がり、引き出しから小さなチェスを取り出そうとして、二人に背を向けた。
 
 
そしてその顔は、明らかな自信と不気味な微笑みで満ちていた。
 
 
――無理もない。
深月の勝利はもう決まっているのだから。