「…ダメだよ。お前弱いもん」
 
深月(みつき)はそう言われ、少しいらついて睨み返した。
だが、深月が睨んだそいつは、まるで深月の存在などないようにまた勝負を始めた。   
深月は退屈で仕方なかった。他人の家に来たヤツが、なんでその家のヤツを差し置いて遊んでんだ。
 
 
「…ねぇ…。ここ僕ん家なんだから、僕にも遊ばせてよ」
だが、その言葉は誰にも届くことなく消えた。
深月はイライラして貧乏揺すりをした。
 
 
今深月の目の前で勝負をしている二人。
深月の家にある、深月の父が昔イギリスで買ったアンティークな感じのチェスの駒をとても気に入り、毎日のように深月の家に来た。
その二人の強引な性格に対し、深月は気が小さかった。
それゆえ、チェスを知らない深月は、その二人の勝負を見ているしかなかった。
たまに何か言っても、それは無視される。
深月にしてみれば良い迷惑だった。
 
当時、まだ10才にも満たなかった深月。
その幼い心は、必死に「答え」を探した。
――どうすればあの二人の勝負を辞めさせられる?
 
――答えは簡単。あいつらに勝てばいい。
 
 
――じゃあ、一体どうやって勝つ?
 
 
熟考の末、深い月はついに「答え」を見つけた。
 
そしてこの瞬間から、開花した深月の博才が伝説を作り始めた。