「…私と別れて他の人とつき合っても、いいよ。

もっと普通に抱き合ったりキスしたりできる人と。

いつまでもこうやって我慢させてるままでいるのは、苦しいよ」

決死の覚悟で私が言った時、秋雄は

「俺は芽衣と一緒にいたいから。

我慢してないわけじゃないけど、

自分がそうしたくてしてるだけだし、

その事で芽衣に変な負い目を感じてほしくない。

俺にとって芽衣と別れるのは、我慢よりも苦しいんだ。いやだよ」

そう言って、初めて私の前で泣いた。

二人で一晩中、泣き明かした。

指一本すら触れないまま、あの日私達は初めて、

強く強くお互いを抱きしめ合って泣いていた。 


「ありえない」

「老夫婦?」

友達はみんな口を揃えて、

秋雄の私に対する生真面目な尊重を

驚きながら笑っていたけれど、

私の心は日に日に秋雄への信頼と想いに満ち、

それはもう、溢れてこぼれてしまいそうになっていった。

『手をつなぎたい』

『抱きしめたい』

『キスがしたい』


少しずつ、少しずつ、

私の想いは毒のように蜜のように心と体に巡り

そうして秋雄を求めていった。