「何で……」






小さく呟くと、彼女はしゃがみ込んでしまった。






「何で……忘れようとして……たのに……。これ以上迷惑かけないって………………決めたの……に。」







彼女の声はとても小さく、そして震えていた。





泣きながら話す彼女を、俺は優しく抱きしめた。







「迷惑なんてかけられた覚えないけど?何で俺のこと避けたの?傷付いたんだけど。」

「……」










それ以上彼女は何も言おうとしなかった。





謎は残ったままだったけど、俺の心は少しスッキリした。







それから彼女が落ち着くまで近くにあったベンチに座って、何も話さずに家に送りとどけた。





前と同じように手を繋いで。





俺と彼女の離れていた距離は、少し近づいた。



少し元に戻った。



それだけのことなのに、俺の心は晴れていた。














翌朝起きたときには雨が降っていた。



昨日の彼女の涙のように。



天気予報では、しばらく雨が降り続くと言っていた。





靴を履いて、カバンを持って、ドアを開けて、傘を開く。