俺はまた先生の目を気にしながら、『見て』と口パクで伝えた。







クシャッと紙を開く音が小さく聞こえて、しばらくしてから同じ紙が返ってきた。




さっきの俺と同じように口パクで『見て』と伝える彼女。






俺は静かに紙を開いた。







『何かあった?』という俺の文の下に、『何もない』と書かれていた。







返事は分かっていたけど、こう簡単に誤魔化されると少し腹が立つ。





授業を進める先生の声より、朝から降り続いている雨の音が俺の耳に静かに残った。












授業が終わって帰る頃には、雨は小降りになっていた。






俺は授業が終わったらすぐに彼女に声をかけようと決めていた。




「綾咲っ!」





俺はカバンを持って彼女の机の横に立ち、彼女は俺の方を黙って見た。





「帰ろ。」

「ごめん。今日用事あるから一人で帰るね。バイバイ。」








彼女は自分のカバンを持って、小走りで教室を出て行った。






「逃げられたねぇ。」




放心状態の俺の後ろから突然声をかける聡。





「うるさいっ!俺はしつこいのっ!絶対聞き出してやるっ!」