歩いているあいだ、付き合ってるわけでもないのに手を繋いで、しょうもない話しをしたりした。





時々彼女が強く俺の手を握った。










「着いたよ。」



学校を出てから30分以上歩いたところにあったのは、犬の鳴き声が騒がしい保健所だった。






俺はしばらく黙っていたら、先に彼女が口を開いた。




「想像してた場所と違った?」

「うん。」




正直に答えた。








「いろいろ考えてたけど、こんなとこは考えてなかった。」

「やっぱ考えてたんだ。」




また俺の目が泳ぐ。




それを見て彼女がクスッと笑った。









「昔ね、犬を飼ってたの。生まれたばかりのゴールデンレトリバーでランちゃんっていうの。」




彼女は淋しそうに檻の中で吠え続ける犬を見ながら話し始めた。






「あたしはまだ小さくて、ランちゃんの散歩では、いつもリードを持たせてもらえなかった。危ないって言われて。しばらくしてランちゃんは、すごく大きくなったの。あたしなんてすぐに越されちゃった。ゴールデンレトリバーって大型犬だから。ある日ね、散歩に出掛けたら、ランちゃんが近所のおばさんの手を噛んじゃったの。そのおばさんとうちの両親、すごくもめてたみたい。結局最後には、ランちゃんを保健所に連れて行くことになっちゃてね。すごく泣いた。すごく悲しかった。」