和樹は自分のマンションから携帯で話ながら出て駐車場の愛車に向かった。
携帯電話を切り終えて呟いた。

「ついにお姫様が女王様だな。」

あの女はもう5年近く俺の客だった。18の時からホストをはじめてやっと上から数えた方がはやいくらいの中堅になった頃に一際美人の着物の女が店にふらっと独りで現れた。それがあの女だった。

歳は俺とさほど変わらなく見えるのに落ち着いた仕草や会話は流石に銀座の女だった。銀座で親父どもがなん百万使ったってやれない女だと思うと興奮した。

「何も知らないのねぇ?」
話題が時事問題になると酒に逃げる俺にあの女が言った言葉だ。

「そうかもしれません。じゃあ貴女が教えてくれますか?」

我ながら巧く返したつもりだった。が…

「あら。女を口説くのに努力なんてしたことない男のセリフね。」

女は続けた。

「ウチのお店に来てくださるお客様の方が私を楽しませてくださるわ。貴方、水商売向いてないみたいよ?やめてしまいなさい。」

と、こうだ。今思えばあの時俺はあの人をキャバクラで適当に働く餓鬼といっしょにしていた。しかし、違ったのだ。
日々努力し美しくある事すら仕事であり、誰より高価な着物を23の若さで見事に着こなす─。

あの人は銀座のNO.1だった