今年の春、私は桜岡高校に入学した。
 
  同じ中学だった人は誰もいない。

  
  私はこの学校で新しい生活を送るんだ。



  そう思ってた。

  だけどそれは違ったみたい。

  
  「ぇーっと、私のクラスは…」
   
  「二組だろ」

   何か聞き覚えのある声が聞こえる。
   それは優しくて強い声。
   
   おそるおそる振り返ってみる。

  
  「隼人っ!?」

   なんで?なんで?
   頭が混乱してきた。
   なんで隼人がここにいるの?

   「なんでお前この学校にいんの?」

   「それ、私の台詞ね」

    こいつと話すとイライラしてくる。
    ムカつく。
    でもドキドキもする。

  「は?俺はサッカーのためにこの学校に来たんだよ、文句あっか?」

 「その言い方直せない訳?ムカムカする」

 「お前、喧嘩売ってんの?」

  だめだ、イライラを隠せない。
 
 「そのお前って止めてくんない?名前あるんだけど?」

 「今更由希って呼べと?バカじゃねーの?」

  うざいうざいうざい。
  
 「もーいい」

  教室に入って気を休めよう。
  落ち着け私、大丈夫だ。

 
  「待てって」
   いきなり手を掴まれた。
   隼人の手だ。
   暖かい、強くて優しい。

  止めてよ、止めて。
   私に触れないで、思い出しちゃう。

  「何?」
  振り向く事もせず答える私。

  「何であん時俺を振った?」

  聞かないで、思い出したくない。

  「好きじゃなくなったからよ!」

  違う、違うの。
  本当はこんな事言いたい訳じゃないの。

  「本当は違うんだろ?お前嘘バレバレなんだよ!!」
  
   もう止めて。
   あなたを傷つけくない。

  「もう止めて、話かけないで」

  「…分かったよ、もう知らね」

   これでいいんだ。
     これで。

  隼人を残して私は教室に入った