「そう」

祖母はそう言うと、きびすを返してまたダイニングルームのドアへと向かう。
先回りしたspが薫子のタイミングに合わせてドアを開ける。

「そうだわあおい。今日は病院にご用があるからあの女性の様子も見てくるわ。」

ドキリ、とあおいの心臓が跳ねた。

あの女性……

あおいが会いたくてたまらない相手。
あおいが救いたくてたまらない相手。

そのために、今私は生きている。

「そうですか。よろしくお伝えください」

「えぇ」

薫子が見えなくなる直前に笑ったのを、あおいは見逃さなかった。



今日からはじまる新生活。
今の笑みであおいから希望や光は取り除かれた。






━━━━ぱしゃっ

「ヒマリーいいよーはい、視線!ちょうだい!」


アップテンポな音楽が流れるスタジオでカメラのシャッター音が心地よく聞こえる。
そこにハキハキとした声で褒め言葉を連発するカメラマンの前には次々にポーズを変える━━━屋良ひまり が立っている。



画面に映り出される写真はどれも魅力的で服の魅力が最大限に出ている。


それもモデルの腕前なのであろう。
…だが、ひまりはけして笑わないことで有名だった。


「あーんな綺麗な顔。メイクのしがいがあるわ〜っ♪」

「あの綺麗な顔に触れられるなんて、あんたの仕事も羨ましいわよ」

「あれで笑えば絶対にキュートなのに、なんで笑わないんだろうね?」


キャッキャと騒ぐ女性たちの声が廊下から聞こえてくる。
マネージャーの壮はその声に苛立ちを感じた。


(うるせぇ…笑わないのがひまりの魅力だ。)