その瞬間、この部屋一体に緊張が走りもともと静かだったはずの空気が更にしーんと静まり返った。

みなの視線が集まるのは、ダイニングルームのドア。

真っ黒なspたちに囲まれ、立っているのは西園寺薫子。あおいの祖母にあたる人だ。


「おはよう。あおい。」


本人は笑っているつもりなのだろうが、あおいはその笑顔を信じられなかった。
一見、愛しい孫に向ける優しい笑みだが、あおいからすればそれは嘘で。
全て自分を利用するためのことだと察した。

そんな気持ちを表に出すまいとあおいは立ち上がり、

「おはようございます。おばあさま」

と、ゆっくり頭を下げた。そして、今朝はなんのご用で?と続けた。


「えぇ。今日から竹の原高校に入学と聞いたわ。頑張ってらっしゃいね」


あぁ…この優しい話し方が私を惑わしたのか…

泣き叫ぶ自分、女性に罵倒を浴びせる祖母。それを見ながら祖母を止めようとする男性。
無理やり車に押し込まれ、この大きい屋敷にはじめて足を踏み入れたときのことが鮮明にフラッシュバックする。

『今日からここがあなたの家よ。』

にこりと笑う祖母。
今考えれば、あのとき逃げていれば良かったのだ。

「あおい?」

祖母があおいを見つめる。
大丈夫?具合でも悪いの?と聞いてくるがあおいは表情も変えずただ首を横に振った。