普段あまり行くことのない温泉地。

心はどうであれ、身体と髪はサッパリした。

この大自然の中にある露天風呂に浸かりながら、新鮮な空気を身体いっぱいに取り込んでみると、少し気が落ち着いたように思えた。


温泉地を後にするとニックたちは山奥にとある村を見つけた。

それは村と呼ぶにはあまりに廃れていて、人が住めるようなところではない。

建物は傾き、窓は外れ、おまけに屋根のないものもある。

中には火事で焼失してしまっているものもあった。

庭や畑などの手入れは行き届いておらず、雑草が生え放題。

酪農を営んでいたと思われる牛舎には腐った飼葉が残されていたが、牛はどこにも見当たらなかった。

捨てられた村落…。

そんな言葉がよく似合うところだった。


特に長居をするような場所でもないので、ニックは足早にその地を去ろうとしたのだが、その場で一人の少年に出会った。

少年は伸び放題の雑草の陰からこちらを覗っている。

とても痩せていて、頬がこけ、服装もボロボロだった。

話しかけてみると、少々怯えた表情を見せたが、少年は答えた。

意外なことにこの村に住んでいると言う。

満足に食事ができないので食べ物があったら置いていってほしい、と。